大人しいクラスメイトがカラダを売ろうとしてます

木場篤彦

第1話不思議なクラスメイト

 僕は片手で数えられる程しか自宅で女子いせいと遊んだことがない。

 今日——5月21日の火曜日という日は死ぬまで忘れることは無いだろう。

 この出来事を忘れるとしたら記憶障害を患ってしまったときだけだろう。

 高校生活が一年過ぎ、二年生に進級した5月。

 去年違ったクラスで過ごした女子、佐渡嘉音さわたりかのんが初めて僕に話しかけてきた。


「今村くん……今村くん、あの今村くんのお家……行きたい……良いですか?」

「えっ?ぁあ、うん……僕は構わないですけど……」

 佐渡のか細い声で聴き取れず、表情で示すと僅かに声量を上げ、言葉を紡いだ。

 お互いが口下手で、潤滑に会話が続かずこんな残念なキャッチボールになった。


 昼休憩に校舎から離れた位置に設けられた図書棟——一般的にいう図書室の建物に赴いた。

 カウンターの内側に一人の女子生徒がいた。

「こんにちは。今日は借りにですか?」

「あ、どうもぅ。昼食を……」

「そうですか。ごゆっくり……あっ宜しければ、読みたいものがあれば遠慮せずリクエストを」

「あぁ、はい。気が向いたらします」

 僕はそう返事して、パソコンが設置してある学習室と名付けられた奥まった個室まで進み、入室し扉を閉めた。

 奥の席に女子生徒が一人居り、驚いた。

 彼女が佐渡嘉音だったからだ。

「やっぱり此処でしたか、昼食を食べるのは?今村くん、隣空いてます……どうぞ」

「僕は隣じゃなくても……今日暑いでしょ?」

「暑いですね。隣を断る訳にはならないと思いますけど……」

「それは……」

 僕は彼女に促されるが隣の席に座るには、勇気がいった。

「分かりました。お好きなとこを選んでください」

 厭きれたような不貞腐れたようなトーンで返した彼女。

 僕は申し訳なく感じ、浅く頭を下げて、彼女の横顔を窺える離れた席に腰を下ろし落ちつける。

「似てる……今村くんって」

「なにか言った、佐渡さん?」

「いえ、なにも」

 僕は彼女を怒らせたらしい。

 彼女はサンドウィッチの包装をびりびり破いて、器用にサンドウィッチをかぶりついた。

 普段から豪快な食べ方なのか、僕には検討はつかず弁当箱から煮込まれたジャガイモを箸で掴み、口に運んで咀嚼した。


 昼食を終え、パソコンで調べたい情報を調べている間に彼女は姿を消し、居なくなっていた。


 放課後になり、佐渡に住所を教えようと姿を探したが教室には居なくなっていた。


「トイレかぁ?まぁ、待つか……」

 僕は15分待ったが佐渡は姿を現さず、彼女と親しくしている谷戸宇やとうを探し、谷戸宇に会えたが彼女はカフェに行くのを断って帰っていたらしい。


「なんだよ……佐渡さん」

 僕は愚痴を漏らし、帰宅した。


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