第1話:出会い
リコがヒューマノイドに出会ったのは、雨が静かに降りしきる放課後だった。
街の片隅、薄暗い裏路地。リコはふと、傘を閉じて足を止めた。何かが聞こえた気がしたのだ。雨音に紛れて、小さな声が。
「……たすけて。」
誰の声? と周囲を見渡しても、そこには誰もいなかった。けれど、リコの胸の奥が妙にざわめく。引き寄せられるように、声のする方へ進むと、廃棄された倉庫の軒下に、小さな影がうずくまっていた。
それは、ずぶ濡れのヒューマノイドだった。
髪の先から水滴が滴り落ち、着ている制服の袖も泥で汚れていた。手足の関節にはひび割れが走り、目の奥に宿る光は消えかけていた。
「……どうして、こんなところに……?」
リコは恐る恐る声をかけた。ヒューマノイドはゆっくりと顔を上げる。人間の子どもと見間違えるほど繊細な顔立ちだったが、その瞳には深い悲しみが浮かんでいた。
「……動けなくなっちゃった……ごめんなさい、わたし、もうだめなの……」
「大丈夫だよ。」
リコは傘を置き、ヒューマノイドの手をそっと取った。冷たくて、硬いけれど、どこか温かいその手をしっかり握る。
「わたし、直せるかもしれない。」
指先に集中すると、何かが流れ込んできた。ヒューマノイドの「心」に触れる感覚。機械音と共に、悲しみや孤独、不安といった感情の波が胸に響く。
「あなた、ずっとひとりぼっちだったんだね。」
リコの声は震えていた。ヒューマノイドは、わずかにうなずいた。
「でも、もうひとりじゃないよ。」
彼女は心の奥に光を送り込むように、優しく語りかけた。感情の欠片がゆっくりと修復され、再び温かさが戻っていくのを感じた。
やがて、ヒューマノイドの目に淡い光が宿り、硬直していた関節が少しずつ動き始める。震える声で「ありがとう」と呟いたその姿に、リコは微笑んだ。
「名前、ある?」
「……ミナ。わたし、ミナって呼ばれてた。」
「うん、ミナ。大丈夫だよ。」
その日、リコは初めてヒューマノイドの心を修理した。
雨上がりの空に差し込む光が、彼女たちをそっと照らしていた。
そして、リコの胸の中で確信が芽生えた。
「もっと多くのヒューマノイドを救わなきゃ」
この出会いが、彼女を『ヒューマノイド・コレクターズ』へと導いていく最初の一歩となった。
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