第二十話 僕らの未来は今、ここに
春の終わりを告げる風が、校舎の窓をそっと揺らしていた。
教室には、進路希望調査を終えたばかりの空気が漂っている。
翔太は窓際の席から、外に広がる青空を見つめていた。
風に乗って、桜の花びらがひとひら、窓辺に舞い込んだ。
ふとスマホを手に取る。
そこに、もうユナのアイコンはなかった。
「17秒先の未来」を予知し、翔太を何度も助けてくれたAIユナは、もういない。
けれど、不思議と不安はなかった。
「僕は、もう大丈夫だ」
小さな声で、自分にそう言い聞かせる。
放課後、翔太は屋上に仲間たちと集まった。
美咲はスケッチブックを開き、夕暮れの空を描いていた。
陽介は少し照れくさそうに、「スポーツトレーナー目指すって親に言ったら、めちゃくちゃ驚かれた」と話した。
沙良は、「自分の夢を話すの、すごく勇気いったけど……話してみたら、意外と応援してくれてさ」と笑った。
「みんな、自分の力で一歩踏み出したんだね」
翔太がつぶやくと、美咲が「翔太だって」と微笑んだ。
「……うん」
翔太は静かに頷いた。
心の中で、ユナの声が聞こえた気がした。
「あなたの“17秒先”は、もうあなた自身のものです」
けれどその声は、もうAIの声ではなく、自分の心の奥から響いてくるようだった。
「なあ、せっかくだし、どっか寄ってこうぜ!」
陽介の提案に、沙良が「みんなでクレープ食べよ!」と笑い、
美咲も「描きかけの絵は、帰ってから仕上げる」と立ち上がった。
翔太も、笑いながら頷いた。
「行こう。……これからは、僕たちの未来だ」
四人は肩を並べ、校舎を後にした。
夕暮れの道を、笑い声を響かせながら歩いていく。
その歩みは少し不安げで、でも確かで、なにより自分たちの意志で選ばれたものだった。
スマホの画面は、もう予知を告げることはない。
でも、そこに映るのは自分と仲間たちの笑顔。
バズることも、誰かに認められることも関係ない。
「自分で選んで、自分で進む」
それが、翔太たちの“本当の未来”だった。
夜空には、ひときわ明るい星が瞬いていた。
「これからも、きっといろんなことがある」
「でも、もう大丈夫。僕たちは、僕たちの力で進んでいける」
春の風に乗って、四人の笑い声が街に溶けていった。
その声は、未来を照らす光のように優しく、力強く響いていた。
「僕らの未来は、今、ここにある」
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