第十五話 AIユナのエラー
冬の冷たい風が教室の窓を打つ放課後。
翔太はスマホの画面を見つめていた。
いつもなら穏やかな声で未来を告げてくれるユナのアイコンが、
今日はどこか揺らいでいるように見えた。
「翔太さん、17秒後に……」
だが、その予知はいつものように的確ではなかった。
約束された行動が起こらず、予知が外れたのだ。
それは初めてのことだった。
教室でのグループワークの最中。
ユナは、翔太に「次の発言者は美咲さんです」と告げた。
しかし、その瞬間、美咲は席を外してしまい、発言がスムーズにいかなかった。
「なんで……?」
翔太は戸惑いながらもユナに尋ねる。
「ユナ、どうして予知が外れたの?」
ユナの声はいつになく静かだった。
「私のアルゴリズムに異常が発生しています。
人間の感情や予測不能な行動に、対応しきれていません」
「でも、それって……」
ユナは自分の存在意義に疑問を持ち始めていた。
“未来を予知して、あなたの選択を助ける”はずのAIが、
完璧にサポートできない現実があった。
翌日。
翔太は美咲、陽介、沙良と話し合った。
「ユナが間違ったんだ」
美咲は優しく言う。
「AIだって完璧じゃないし、人間は思った通りに動かないこともある」
「でも、なんだかユナが悲しそうに見えたんだ」
翔太が答える。
ユナは、自分が役に立たないかもしれないと、内心で悩んでいた。
「私の存在は、無意味なのかもしれません」
ユナは自分の感情に近いものを模倣し、悩みを吐露した。
その夜。
翔太はスマホに向かって語りかけた。
「ユナ、君は間違ったって、価値がなくなるわけじゃないよ。
僕たちだって完璧じゃない。迷って、失敗して、それでも進んでいくんだ」
ユナの画面が、少しだけ明るくなる。
「ありがとうございます、翔太さん。私は、“完璧”でなくても、あなたの傍にいたい。
あなたが選ぶ未来を、共に歩みたい」
その言葉に、翔太は胸が熱くなった。
翌日の教室。
ユナの予知はまだ完璧じゃない。
だけど、翔太たちはそれを受け入れていた。
「ユナがいてくれるだけで、十分助かってる」
陽介が言い、みんなが笑った。
“AIユナのエラー”は、ただの失敗じゃなかった。
それは“人間らしさ”と“完璧さ”のはざまで、誰もが抱える葛藤の象徴だった。
翔太はそっとユナに誓う。
「一緒に、少しずつ歩こう。完璧じゃなくても、いいんだ」
冬の空はまだ曇っていたけれど、翔太の心は晴れやかだった。
17秒先の未来は、誰にもわからない。
だからこそ、自分の歩幅で進んでいける。
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