第六話 既読スルーの予知

 日曜の午後、窓の外では雨が細かく降り続いていた。

 翔太は自室のベッドの上でスマホを見つめていた。

 グループLINEのアイコンが、静かに揺れている。


 「“了解”」

 何気なく送ったつもりのひとこと。

 けれど、それからみんなの反応がぱったりと止まった。

 美咲も陽介も沙良も、既読はつくのに、誰も返事をくれない。

 それだけのことなのに、どうしようもなく胸がざわざわする。


 翔太は考えすぎだって自分に言い聞かせる。

 でも、画面の向こう側のみんなが“何を思っているか”が見えない。

 小さなグループLINEの中で、孤独と不安が静かにふくらんでいった。


 (もしかして、僕、なんか変なこと言っちゃったかな……)

 (みんな、怒ってるのかな……)


 雨の音だけが、静かに部屋を満たしていた。

 思わずユナのアイコンを開く。


 「ユナ……このあと、グループLINEってどうなると思う?」

 ユナの水色のアバターが、画面の中で静かに揺れる。


 「17秒後、美咲さんが“ごめん、今ちょうど出かけてた”と返信します。その直後に、陽介さんが“さっきお風呂入ってた!”と送ります。沙良さんも“充電切れてた!”と続きます」

 淡々とした声。

 「既読スルーは“無関心”ではありません。たいていの場合、返信できない理由があります」


 その言葉を聞いても、翔太の胸の奥のモヤモヤは消えない。

 本当に“みんなの気持ち”が知りたいだけなのに、SNSの画面越しでは、ただの既読マークしか見えない。


 「ユナ、もし僕が“気にしすぎだよ”って送ったら、どうなる?」

 「美咲さんは“ありがと”と返信し、陽介さんは“さすが翔太”とスタンプを送ります。沙良さんは“またグル通しよう!”と提案します。結果、グループ内の緊張は解けます」


 (だったら、勇気を出して送ってみようかな……)


 翔太は小さく息を吐いて、指を動かした。

 「なんかみんな忙しいっぽいし、全然気にしてないよ~」

 送信ボタンを押してから、さらにドキドキが増す。


 そして、ユナの予知どおりに、美咲から「ごめん、今外出てた!」「ありがと」と続き、

 陽介からは変なスタンプが飛んできて、沙良は「またグル通やろ!」と明るいメッセージを送ってきた。

 たったそれだけのことで、さっきまでの重い空気が、すっと晴れていく。


 SNSは便利だけど、ときどき怖い。

 “既読”ひとつで、不安になったり、自分の存在がちっぽけに思えたり。

 けれど、本当は誰もがそれぞれの事情で生きている。

 “自分のことばかり気にしていたな”と翔太はちょっとだけ反省した。


 雨が止み、雲の隙間から光が差し込む。

 窓を開けると、ぬれたアスファルトの匂いが流れ込んできた。


 その夜、翔太はユナにこう語りかけた。


 「ありがとう、ユナ。君がいたから勇気を出せたよ」

 ユナは静かにうなずいた。


 「あなたの選択が、小さな未来を変えました。

 あなたの“不安”は、きっとみんなも同じように感じていたはずです」

 画面の向こうで、ユナが柔らかく微笑む気がした。


 画面越しの“既読”も、本当は温かい繋がりのひとつなんだ――

 翔太は、そんなふうに思いながら、やさしい眠りに落ちていった。


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