異世界でも私は働きます。恋愛は…え、なにそれおいしいの?
ゆゆ
第1話 異世界転生、そして再就職活動(?)開始
──暗い。重い。寒い。
そう思ったとき、私はすでに死んでいた。
通勤中、横断歩道でスマホに気を取られた私は、トラックに気づくこともなく──まあ、いわゆる異世界転生系でよくあるパターンで、あっけなく命を落としたわけだ。
そして、次に目を覚ました私は──
「……え、なにこの天井……古民家? いや、和室でもないし……藁?」
頭はぼんやりとしていて、体はやけに軽い。あたりには古びた木の匂いが漂っていて、鳥の鳴き声がどこか遠くから聞こえてくる。
私はベッド……いや、干し草の上に寝かされていた。服は、見慣れたスーツじゃない。生成りのワンピースのような服に包まれている。
──これは、もしかして。
「……マジで、異世界転生した……の?」
混乱と戸惑いの中で、鏡代わりの水面をのぞいた私は、さらに衝撃を受ける。
──見た目が、10代後半くらいの少女になっていた。
そして名前は、「ナオミア・エルグレイン」。どうやらこの世界では、没落貴族の末娘らしい。
没落、という言葉には聞き覚えがある。たぶん……あれだ。
肩書きは立派だけど、中身はスカスカ、金もコネもない“名ばかり貴族”。
「まさか、前世より貧乏なスタートになるとは思わなかった……」
私はうめくようにそう呟いた。
そしてこの時、私は悟った。
この世界でも──働かないと、生きていけない。
* * *
「それで……この手紙を、ギルドの受付に渡せば……」
父、もとい“ここの父親役”の人物から渡された封筒を握りしめ、私は街へと向かった。
そう、就職活動だ。
異世界でも、生活費は稼がねばならない。魔法もスキルも、今の私にはよくわからないけれど、持っているのは前世仕込みのビジネスマナー、処理能力、あと地味な段取り力。
つまり──
「社畜スキルで、異世界生き抜いてみせる!!」
空に拳を突き上げたその瞬間、後ろからひとりの青年に声をかけられた。
「……お嬢さん、いきなり空に向かって何の宣言だ?」
──その人が、私の運命を変える騎士団副団長、ライアスとの出会いだったとも知らずに。
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