遠距離恋愛
進藤 進
第1話 背伸びして
「また、えり・・曲がっとるよぉ・・・」
耳元で囁く甘い息がくすぐったかった。
東京へ旅立つ新幹線のホームで。
アイツが俺のスーツの襟を直そうとしていた。
背が低いアイツは。
幼子のように可愛くて。
背伸びするように抱きつくから。
そのまま、ギュッとしたくなった。
「ふふっ・・・」
微笑む口元から白い歯がこぼれている。
俺の大好きな顔だ。
離れてしまう寂しさが急に感じて。
俺は。
泣きそうになった。
だけど。
アイツの方が先に涙を滲ませた。
「もぅっ・・あはは・・・」
指で拭いながら、何でもないように無理に笑う。
「これで最後でも無いのになぁ・・・?」
自分に言い聞かせるように呟いた。
一瞬、真顔になった眼差しが。
俺の胸を締め付けた。
「あ、あのなぁ・・・」
「えぇよ・・・」
俺の言葉をアイツの声が遮る。
背中をギュッとして熱い息を吹きかけている。
「待っとるから・・・」
絞り出すような声が胸に沁み込む。
「待っとるからね・・・」
もう一度、ギュッとした後、アイツは両腕を離した。
泣きはらした瞼が赤い。
いつの間にと、思ったけど。
ホームに鳴り響く出発の音が。
二人を引き離す。
ドアが閉まり。
音が聞こえない風景の中。
アイツが。
泣きながら走っていた。
そう。
アイツは走っていたんだ。
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