家庭内キックボクシング生配信

4歳頃の生活からは、割と記憶の中に残っている。


うちでは毎日のように、家の中で大乱闘が繰り広げられる。


朝になると食器の破片が散らばり、壁に飛び散った血痕、倒れたイス。破壊されたペーパーホルダー。そして、顔を腫らしたまま椅子で眠る母。まるで、空き巣にでも入られたかのような様だった。


父は怒りやすく、怒った時は必ず手が出る。

キックボクシングをやっていたらしいが、キックボクシング経験者が日常的に技を使うのは御法度だろう。得意技はスパーリングだ。

こんなにも頻回にキックボクシング生配信を披露されていたら、キックボクシング等テレビでわざわざ観る必要なんてない。無論、キックボクシングなんてコンテンツは大嫌いであった。


当然、幼い私からしたら恐怖で仕方なかった。

母を守りたくて毎度必死に止めていたが、体も小さい私が止めたところでびくともしない。

そこで私は段々と『近所の人の家に逃げ込む』という保身をする事で見て見ぬふりをして過ごすようになった。

近所の人もさぞ迷惑だっただろう。

近所の人の家の中に入るや否や、発狂しながら鬼のような剣幕で追ってくる父と母。この人らには近所の人にどう思われるか、といったプライドもクソもないらしい。


幼少期の記憶は大乱闘のインパクトが強すぎた故に、それ以外にまともな記憶といえば思い付かない。

この頃から母や父の逆鱗に触れてはいけない、と私だけは怒られるようなことをしまいと必死に二人の顔色を伺いながら過ごしていた。



第三話.『孤独に囚われる日々』

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