第11話 偵察兵の地獄
ビビオは相変わらず最前線を駆け回っていた。
バイク兵の彼の役目は偵察、連絡だけに留まらず、補給処から物資を受け取り、部隊まで運ぶなどの雑務も多かった。
欠員だったサイドカーには新しい相棒が座っている。
ビビオより1歳若い新米だった。
徴兵されて、僅か二週間で兵学校を卒業した急造兵士と呼ばれる類のヤツだ。
最初にサイドカーに乗せた時は目の前にある機関銃さえまとも操作が出来なかった。
配属されて、3週間が経って、ようやく使えるようなってきた。
その日、部隊は敵の動きを察知する為、強硬偵察が命じられていた。
これは敵と軽度の戦闘を行い、敵勢力の詳細を知る危険な任務だった。
中隊は作戦を決行する為、敵前方へと移動していた。
四輪装甲車4台とトラック6台、四輪車が5台、バイクが13台。
兵士の数は総勢73名。
想定される敵勢力は同様の中隊規模であった。
この手の任務の危険性は敵勢力の見通しや撤退のタイミングであった。
小競り合いをして敵を知る。
言うは簡単だが、一つ間違えば、大きな損害に繋がる危険な作戦だ。
中隊長は長年、偵察任務に従事したベテランだ。
だが、ベテランと言えども、戦場では完璧だとは言えない。
ビビオは殿を務めた。
先頭は防御力の高い装甲車。
仮に機関銃や小銃で撃たれてても被害は抑えられる。
バイク部隊は戦闘が始まれば、後方に留まり、情報が得られ次第、それを後方へと伝える役目だった。
無論、無線機もあるので、必ずしもバイクによる伝達が必要では無いが、脆弱なバイク兵が戦場で活躍が出来るわけも無く、むしろ、彼らが直視した情報も含めて、後方へと送った方が良いだけであった。
ビビオ達は比較的、安全な場所ではあった。
それでも戦闘が起きている場所に居るのだから、常に危険に備えなければならない。特にビビオの相棒はまだ、戦闘に関しては未経験だった。
戦闘の始まりは唐突だった。
敵に先手を取られた。先頭を走っていた装甲車が突如、爆発したのだ。
どうやら、敵の戦力を見誤ったようだった。
敵は戦車を隠し持っていた。
と言うより、敵は自走砲と呼ばれる戦闘車を投入していた。
自走砲は大砲を自走化した兵器だ。
そう言うと、大砲にエンジンを搭載した程度にしか思われないが、殆どは戦車のような物だ。戦車との違いは砲塔が無く、車体に大砲が乗っているだけの感じ。
特に我々が遭遇した自走砲は小型の車体に小型の対戦車砲を搭載しただけの物。
小型過ぎて、確認が出来なかった。
小口径の速射砲は戦車砲と呼ぶには威力が低かったが、それでも砲だ。尚且つ、速射砲と呼ぶだけあり、連射性能が高かった。
砲弾が次々と装甲車に襲い掛かる。威力が低いと言っても初速の速い砲弾は装甲車程度の薄い装甲なら余裕で貫く。
反撃が遅れた我々は一瞬にして、装甲車を失った。
それより後は敵の攻撃をただ、受けるだけであった。
撤退のタイミングすら無い。
トラックから降りて、戦闘を開始した歩兵達だが、数で優る敵に圧倒されるだけだだった。むしろ、トラックさえも失い、撤退する為の足を失ってしまったのだ。
中隊長はこの状況でも敵を観察した。そして敵戦力を確認すると、後方に控えさせていたオートバイ部隊に知らせる。彼らの目的はここから離脱して、得られた情報を後方に知らせる事。
ビビオは口頭で知らされた情報を間違いなく覚える。そして、来た道を戻る為にバイクをUターンさせる。
銃弾は彼らにも襲い掛かる。
敵はすでに目前まで迫っているのだ。
敵の装甲車が歩兵を蹴散らした。
ビビオは敵装甲車から逃げるためにもアクセルを絞った。
整備不良でマフラーから黒煙が上がる。
出力は全開とは言えない。それでも懸命に走らせる。
サイドカーの機関銃は後方には撃てない。だが、サイドカーの搭乗者は支柱の留め具を外し、機関銃を担ぎ、体を後ろに向ける。
ドドドド
激しい銃撃を装甲車に向ける。
だが、さすがに装甲車だけあり、その銃弾は全て弾かれた。
代わりに装甲車の15ミリ機関砲が唸る。
一発でも当たれば、体の半分が失われる程の巨弾がビビオ達に襲い掛かる。
一台、一台とバイクやサイドカーがその銃弾に食われた。
ビビオの隣で機関銃を撃っていた相方の体が爆散した。
血と肉片がビビオの半身を染める。
ビビオは恐怖した。後方では機関銃が落ちて暴発している。
もう武器は無い。ただ、逃げるしかないのだ。
その後の事はビビオはぼんやりとしか思い出せない。
ただ、ひたすら、バイクを全速で走らせた。
幾度もバイクは悪路で跳ねて、転びそうになった。
そのせいで、上半身を失った相棒の身体はどこかで落ちた。
味方の陣地に戻った頃にはバイクのエンジンは寿命を尽き、ビビオ自身も全身に負傷をしていた。
そして、戻ってきたのはビビオのみだった。
天空を駆る姫様 三八式物書機 @Mpochi
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