EPISODE 4 天世

――3年。3年だ。


この3年間、麻衣の幻影を追いかけて来た。


清栄連合とは、麻衣がまだ居た頃から二人で共闘して抗争を繰り広げていた。


あの日、麻衣の行方が分からなくなった日。


麻衣は俺に電話をかけてきた。


自分一人で単騎特攻してしまったことの謝罪。


敵は清栄連合だけじゃなくなった、という情報。


そして。



――身勝手なこと言って本当にごめん、秀一。一生のお願い。――


――助けてほしい。私の位置情報が出てるGPSは私の研究所にあるからそれ参考にして。黒色のと白色のがあると思うけど黒色のやつ。――



もちろん俺はすぐに助けに向かった。大雨だった。


なんで大雨の日の、こんな夕方から一人で戦ってるのかとか、何してるんだとか。


不思議とそんな感情が湧かなかった。


それ以前に、麻衣がまずい、その一心だった。


車乗ってあいつの研究所に立ち寄ってGPSを取って見れば、とんでもない山道に居て。


とてもじゃないけど車だと途中までしか行けなさそうだった。急いで高速乗って向かって、山は登れるところまで車で行って。


その後は、ぬかるんだ舗装されてない地面をひたすら走った。けど。


谷にかかってる、それこそ普段のメンテナンスもされてなさそうな吊り橋が、


業火に包まれて崩落していた。こんな豪雨の日に炎も消えず、しかも山火事のように火が広まることも無く、橋が燃えて崩落しているだけ。


神刀で誰かがやった。間違いない。


俺の天鈴は業火の能力を持つ神刀だが、対象に攻撃したところで炎が燃え広がることは無く、全てのエネルギーが対象に一極集中するようになっている。


他の神刀も同じ。ということは。


「清栄連合の神刀使いか……?」








「あぁ~、やっぱり道が壊されちゃってたか、ごめんねわざわざ迷惑かけて」


「麻衣、お前今どうなってんだ!!GPSは!?」


「ああ、あ、そっか。あれね、取れちゃったや。ごめん。うん、そうだ。今無いんだったね私のGPS。」


「落としたのか!?じゃあ今どこに」


「秀一。しばらく会えなくなる気がする」


「……は?」


「関係ないようで、関係ある話。


いっつも弟子弟子言ってて名前言ったこと無かったから言っとくね、私の弟子は白上澪音って女の子。私に似た良い子。」


「な、急にお前、何言って」


「お父さんとお母さんには正月は顔出せなさそうって言っといて。今月分の給料は仕送りできなさそうだから代わりに秀一がやっといて。値段分かるでしょ?」


「何言ってんだよさっきから!!!遺言じゃねぇんだから、さ、」


「うん、遺言じゃない。そこは大丈夫。けど本当にしばらく会えなくなりそう」


「!!まさかお前、清栄連合に誘拐でもされたのか!?そういうことか!?」


「あー、それね。清栄連合じゃなくて今の組織名は『GRAND JAKQER』なんだって。別の組織とくっついたとかなんとか。」


「グ、グランド」


「私の事大好きで心配性な秀一くんに言っときます!


何か月なのか何年かは分からないけど、絶対に生きて帰ってくるから。私、そんなヤワじゃないからね。」


「……おう。」


「そっちにさっき白銀を送った。オートモードにしてあるから今は人工知能はオフにしてあるけど、帰り道寂しかったらオンにしていいよ。車のトランクにでも突っ込んで帰って。」


「麻衣は今は、帰れる状況じゃないんだな?」


「うん。チルタイムではあるけどね、秀一と電話できてるし。」


「……無理してでも俺がそっち行った方が良いんじゃないのか?」


「秀一の今いる場所から私のいる場所まで、道が無い状態でこんな雨の日に徒歩してたら、それこそ時間がかかりすぎちゃうからね。大丈夫だよ。」


「分かった。お前を信じる。」


「うん!全員倒すから心配しないで。早くて3日で帰る。」


「分かった。……本当に大丈夫なんだな?」


「心配しすぎです~。……ありがとうね、わざわざ来てくれて。」


「……待ってるからな。負けても良いから死ぬなよ。……絶対に帰ってこい。」


「まっかせといて!!じゃあ、雨の日だから温かくして帰ってね!」


「おう。……電話くらいかけてこいよ?」


「えへへ、分かった。」


「じゃあ、また今度。」


「ん!……秀一。」


「なんだ」


「大好きぃ!!!」




***




あの時、あいつの帰ってくるという言葉に違和感を持たなかったのは、


あいつなら大丈夫!って思えてしまったのは


あいつが規格外で、意味が分からないくらい強かったからだろう。


あり得ない強さだった。誰が何人束になっても勝てっこない。


けど、負けたってことなんだろう。あの後確かにGRAND JAKQERという組織が台頭し始めた。


麻衣が、清栄連合を止められなかったということ。


最初のうちは生きてるって信じてた。でも、そんなの信じられなくなってきた。


『何か月なのか何年かは分からないけど』ってなんだよ。


『道が無い状態でこんな雨の日に徒歩してたら、それこそ時間がかかりすぎちゃう』ってなんだよ。


俺がそっちに無理矢理歩いて向かった方が絶対に良かっただろ。


今どこで何をしてるとかじゃない。


麻衣は殺された。



「安藤麻衣が直接死ぬところなんて見てないし、死んだって聞いたこともないけど。なんせあの日俺は忙しかったからねぇ。


総帥が『峠にある橋全部壊してこい』って言うもんだからさぁ!!!」


「……あぁ、そうか。」













「ご存知かな秀一くん!?俺がなんで『四君子』に入れてないか!?」


「んなこと気にしてる暇ねぇんだよこっちは!!!幹部のお前が麻衣の処遇を知らない訳ねぇだろ!!!!」


「ペラペラブツブツ麻衣麻衣麻衣麻衣うるさいからこっちから話ふったげてるのにねぇ~、白けちゃうよ?自分語り多い奴」


こいつから情報を聞き出せないのなら、今ここでたたっ斬るしかない。


赤い髪。腰に据えるは特徴的な刀の鞘。着崩した着物に、かかとが異常に長いスニーカー。


間違いない。


GRAND JAKQER幹部の一人、北条丸政。俺と同じ神刀使いの一人だ。


俺の天鈴と奴の麺麭恕羅が何度も交差する。勝負は互角……いや、


「一撃重いし遅すぎんだよッ!!トロ野郎!!!」


俺の方が不利だ。


「剣術も神刀の性能も、こっちのが上。

秀一くんさぁ、今先生やってんでしょ?部活の顧問はどこ?まさか剣道部とか言わないよねぇ」



「こっちがお前らの情報仕入れてるんだから、そりゃお前らもこっちの事調べるよな」


「はぇーっ、その反応ってことは剣道部なの!?うわぁ、生徒に腹斬って詫びたら?


生半可なやり方でごめんなさい、って。その為だったらここから逃げても良いよ?」


「話が噛み合ってねぇんだよさっきからグチグチグチグチ……」


――ジュワッ――


俺の足元のアスファルトが変色する。天鈴の刀身が業火――橙色に染まる。


周囲の酸素をも喰らいつくす、俺の神刀は「業火」の能力を持つ。


坂本家に伝わる、祖父が継いできた大切な神刀。


麻衣と共闘した時も常に使った、この刀。


「あっははははは!!!冗談が通じないとはまたまた白けるねぇ君は!!!


うーん、そっちがその気ならしょうがないかなぁ……ねぇ、秀一くん」


油断させて斬るつもりかと思ったが……こいつ、変に侍としての自覚だとか美学は携えている。不意打ちは嫌いなタイプだろう。


「なんだよ」


「もしもさ?君のだぁい好きな麻衣ちゃんがこっちの組織に居て、今はこっちでお仕事頑張ってるよ~!って報告受けたらさぁ、どうする?


君も、こっち来る?」


……死んでない可能性が少し増えたが。


「願い下げだ、爆弾野郎」


「なんで?麻衣ちゃん君の敵になるかもですよ?」


「麻衣の美学と夢に反する。今の麻衣がお前らに手を貸すほど落ちぶれたなら、その時は俺が責任もって引導を渡す。」


「あ、そ。残念、神刀使いがこれで3人に増えてくれるかと思ったのに。」


俺を入れて3人?妙だ。GRAND JAKQERには神刀使いは北条丸政しか居ないはず。


……新入りか?


「どうもそんな提案に乗った神刀使いが居るみたいだな、最近増えたのか?」


神刀使いは等しく正しくあるべき。その美学に一番反していることに気付いていないのがこいつだ。自分の価値観で全てを語りやがる。


「その子は後輩だけど、こういう誘い方してないよ。勝手に寄ってきた、優秀だよね」


「騙しでもしたか?」


「君さ、神刀使いに理想見すぎ。そんな楽観的思考でよく裏社会相手に出来るよね」


「一々話を変えやがって……と、思ったが、今の話を神刀使いの方向にずらしたのは俺だったな。」


「そういう理性的な所は嫌いじゃないよ?でも、神刀使いの話は終わり。」


丸政が、麺麭恕羅の刀身をあの妙に長い踵にそっと付ける。


「俺が四君子に選ばれなかった理由は、決して火力不足だからとか弱いからとかじゃない。


暗殺向きじゃないんだよね、俺。分かるだろ?」


「あぁ、目立ちすぎるからな」


「当たり。爆発はどうしても目立つのが気に食わんねぇ……」


奴が麺麭恕羅で長い踵の一部を斬り落とした。


来る。


ド ガ ア ア ア ア ア ア ア ア ン ! ! ! ! !


丸政の背後で爆発が起きる。否、丸政自身が起こしたのだ。


踵の一部を切り裂き、その衝撃を推進力に変える――ロケットスタート。


 初速から音速に近い踏み込みで、丸政の姿がかき消える。


一瞬で間合いをゼロにした丸政の刃が、俺の首へと迫る。


「リスキルってこういう事だよなぁ!?!?!?」


刀身がぶつかる。なんとか受け止めた。火花が飛び散るのは神刀同士故のモノ。


「動体視力は良いね」


「言ってろ」


業火を纏いきった天鈴で奴の刀身を無理矢理どけて、こちらも首を斬る、むしろ燃やし尽くす勢いで迫る。


「やるじゃん」


軽くいなしてよけやがった。そしてそのまま踵をまた斬り落として爆発させて、飛び上がった。


満月をバックに奴が刀を……俺ではなく、山へ振り下ろす。


「木を貰いまぁす!!!」


刹那。


ボ  ガ  ア  ア  ア  ア―――


鼓膜が破れるほどの爆音と失明するほどの閃光、そして爆風。


大爆発が起きた。


奴が麺麭恕羅で斬り落とした、山の斜面に生えていた大量の木が爆発する。


麺麭恕羅の能力は斬った物体を爆発させる能力とみて良いだろう。だが。


「余裕そうに分析してる風に見えるけど、ボロッボロじゃあん!!いや、ただのホコリかな?だったらごめんね」


一々口うるさい野郎だ……


だが、あいつが持っていないものだってこっちにはある。


出し惜しみはしない。


「神刀使いは神刀を極めることである形態を体得できるって……聞いたことあるか?」


「な――、は、ハハ、秀一くんさぁ、俺相手にそれ使わないと勝てないの?」


「そもそも体得できてねぇ奴が文句言うなよ、生半可」


「まぁいいよ、好きにしたら?自分が苦しいだけだと思うけどね」


なんだか色々言ってるが、どうでも良い。冷や汗がバレバレだ。


神刀と、使用者の精神統一。そして、極限まで高めた神刀を操る精度。これらの条件が揃い、更に日々の鍛錬、努力。


使用者が神刀に認められた時、使用者と神刀の二つの力を限界まで強める能力が発動する。


天鈴の橙色の業火が青白色に変わり、鉄をも溶かす、軋んだ音が鳴り始める。


かなり久しぶりだ、この感覚――


瞳が、青く輝く。


髪が逆立ち、全身から立ち上る熱気が、辺りを蜃気楼のように歪ませていく。


酸素が燃え尽き、限りなく真空に近い状態が俺の周りに生み出される。






息を吸い込み、吐きだし、精神を研ぎ澄ます。


麻衣の無念を晴らす。


麻衣の無念を晴らす!!!!


天世てんせい!!!!」

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科威秘社討 明太子 @Metaico03

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