科威秘社討

明太子

EPISODE 1 白上澪音は止まらない

 なんとまあいい天気だこと。俺、六京海斗ろっきょうかいとはパトカーのハンドルを握りつつ、今日も国道をパトロール。


 滋賀県警に配属されてから3年。俺の仕事は、市民の平穏な日常を守ること。 


例えば、酔っ払いの喧嘩の仲裁とか、迷子の猫の捜索とか、せいぜい深夜の暴走族の取り締まりとか。


平和、と言う社会の割には結構こういうお困り事は多い。いや、これを警官の仕事に出来ている時点で平和なのかもしれないが。


 いつもと違うのは、今日は珍しく一人でパトロール中ということ。大体二人なのに。まあなんにせよ、愛すべき日常は守られていて。最近は全国的に治安が悪化し始めているというので、そんな中で配属された俺は、市民の暮らしを守るために、今日もパトロール中というわけで。

平凡?それがなんだ、何も問題が起きないことが一番良い。今日もそうだった……


 ――キィィィィィィィン!!!!


 鼓膜を引き裂くような、甲高いタービン音が後方から響くまでは。

「うるっっさ!?!?白昼堂々に暴走族かよ!!」


 バックミラーを見た次の瞬間、真横を光の勢いで白い閃光が通過した。刹那、もはや爆風が炸裂したかのように、風圧でパトカーが揺れる揺れる。


「速度オーバーにもほどがあるだろ……えー、速度超過、時速34……!?」

 時速341km。新幹線より速いスピードのバイクなんてあったんだなぁ……じゃねぇ!


「待て待て待て待て!!そこのバイク!!止ま、止……聞こえてねぇな!?」


 俺は慌てて赤色灯を回し、サイレンを鳴らしてアクセルをベタ踏みした。追いつけるわけがない。相手は化け物みたいな速度だ。一応、速度違反の取り締まりの際には一般道でも警察車両は何キロでも出していいことになっている。だが……それこそこのパトカーで時速200kmで追いかけても追いつけるわけないし、そもそも高速道路でも危ないのにここは一般道、市民の平穏を俺もぶち壊す羽目になってしまう。


「おいそこのバイク! 直ちに停車しなさい! 聞こえているのか!!

 おい!! ……止まれゆうてるやろ!!!」


 マイクを鷲掴みにして怒鳴る。だが、前方を走るライダーは止まるどころか、さらに加速したように見えた。

 その背中は、まるで警察のことなど、道端の石ころ程度にしか思っていないような――圧倒的な「無視」を決め込んでいた。


 ***


「あれ!?今の警察かな!? まずいな、相手にしてる暇もないんだけど」


 ヘルメットの中で私、白上澪音しらかみみおは思いっきり舌打ちした。

フルフェイスのヘルメット内部には、AR(拡張現実)ディスプレイが展開されている。 速度、エンジン回転数、そして後方のパトカーとの距離。 あらゆる情報が視界に浮かび上がっては消えていく。この全部を脳に送ってすぐに処理してた麻衣さんって本当に凄いよね、って話。


 あ、麻衣さんは私の師匠!なんだけど、あいにくずっと不在なんだよね。今麻衣さんが残してったものは、色んな発明品と、そして……


『澪音!!私に良い作戦がある』


「何々!?」


『自首しよ』

「は!?」


ほんっとこいつは!!弱気バイクめ!!


『嫌だ嫌だ嫌だぁ!!なんで麻衣も澪音もそんな荒い運転なんだよ!!警察のサイレンが後ろから迫ってたら悪いことしたなぁ……って気分になるでしょ!?日本の道路交通法に基づくと今の速度免停どころか逮捕レベルだよ!?』


「そんだけの速度が出せるアンタが悪い!!」


『それは私をこんな風に改造した麻衣に言え!!』


「じゃあ私にこの速度出させてるアイツらが悪いよ」


『ざっつらいと』


 はるか前方……2km直進後交差点を右折して300m、そこのケンタッキーを目印に左折して700m先に居る「私たちがやっと見つけた組織の尻尾」のせい。なんでここまで分かるかって?GPSの反応地点!文明の利器様々だね!

私はグリップを強く握りしめた。


3年――3年も経った。私の大好きな師匠、安藤麻衣あんどうまいが消えてから、3年経ったんだよ。ようやく掴んだ尻尾だ。たとえ警察だろうと、国家権力だろうと、今の私を止められると思ったら大間違い!!


「止まらんかいそこの!!……えーと?……あ、鈴鹿ナンバー!!鈴鹿ナンバーの白いバイク!!県外から暴走族しに来てんじゃねぇぞ!!」


『ひゃああ私のこと言ってるってマジ自首しよ謝ろお金渡そ』

「無理!!」


 さっきから喋ってるこいつ?こいつが、麻衣さんが残してった、あの人の最高傑作、人工知能搭載バイク、「白銀しろがね」!


「白銀、あんただって麻衣さんのこと大好きでしょ?」


『I love my mother♡』


「そのMother♡の場所の手掛かりが確実に得られるチャンスだよ!!見逃していいの?」


『それはそりゃ……だめだけども』


「ダメだよね!?ね!?」


『はぁ……しょうがないなぁ、ほんと誰に似たんだか。そういうとこ麻衣そっくり』


「え、照れる」


『あんたさぁ……』


 呆れる白銀の声をBGMに、私はもっと速度を上げる。ご存知かな?白銀の最高速度は時速370km!加速は私がやるけど、運転は全部賢いこの子がやってくれます。


「どこまで行くつもりだぁぁ……」


 警官のお兄さんの声が弱くなってきた。いや、離れすぎて聞こえづらくなってきただけかな?なんにせよ、今は警察とおしゃべりしてる暇はない。目指すは麻衣さんの手掛かりだけよ!


「待っててね、麻衣さん!」

『私に罪はないしこいつが全部悪いって誰か証明してくれぇぇ』



***


「ちょっとは待つくらいしてくれよぉ……」


なんで俺が懇願してるんだ畜生!と、思いつつもずーっとめげずに後を追ってみれば……


あいつ、なんでこんな廃工場に入ってったんだ……?

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