麺いっぱい、恋いっぱい(メンコイ)

酒井 吉廣(よしひろ)

第1話 不幸な恋はミソの味

 俺は、とことんツイていない。なんと、今日は痴漢と間違われたのだ。今日はやけに混んでいた。皆おしくらまんじゅうでもしているのかと言わんばかりの人の大軍だった。


「ちょっと、君!触ったでしょ!」


 OLの人が突然、俺の腕を握って言った。もちろん、俺はそんなことしていない。濡れ衣だ。というかこの人とだいぶ離れていたはず。いつの間に横に来たのか・・・。


「は?そんなことして・・・」


「何?あんた、毛も生えてないガキが変態みたいなことして。未成年だからって許されると思ってんの?!キモッ!死ね!」


微妙に口が悪いなこの人。さっさと誤解を解いて学校に行こう。


「だから、してない・・・」


「みなさーん、このガキが私のお尻を触りました!見てください、このアホそうな

顔、最悪!気分悪い!死ね!」


いくら、OLの人に説明しても、聞いてくれない。なんだか、段々と泣きたくなってきた。やばい、涙出そう・・・。


「いや、その子はしてないよ」


と、若いスーツの男性が庇ってくれた。


「はぁ!?どこにそんな証拠あんのよ!」


「いや、見てこの映像。冤罪かなと思って撮ってたんだ。そしたら、あんた誰も触ってないのに騒いでたじゃん」


「・・・・・!?」


 ぐうの音も出ないとはこのことだなと思った。OLに集まった人は皆一斉に疑いの目を向けていた。


「クソッ!」


 最後まで汚い言葉で俺を罵ったOLの人は、駅の改札口に向かって走っていった。俺は、今日のヒーローにインタビューしようと近づいた。


「ありがとうございます。助かりました。」


「あぁ、いいよ。それより・・・」

 

 彼は、見たこともない笑顔で動画の続きを見せた。そこには、さっきのOLのスカートが映っていた。ん?段々下に・・・潜っていく?


「これ撮りたかったんだよ。でも、性格は最悪だな。下着は最高なのにな。なぁ、この話、警察には言わないで欲しいんだけど。もし、言うんなら、君を痴漢として通報するけど。どう?」

・・・俺はとことんツイテない。


「金を出せ。」


「さっさとしろ、コラ!」


 学校まで、数十メートルの所で、ヤンキーに捕まった。嘘だろ・・・。今日は最悪の日が朝から続く。なんで、こんな昭和丸出しのヤンキーに絡まれなければならないんだろうか。どんな人生を歩めば、こんなことになるのか。まったくわからない。


「待ってたぞ、喜多 孝雄。今度の手下はかなり手ごわいぞぉ?なんせ隣町の荒れた高校からスカウトしてきた奴らだからな」


 そういって後ろから出て来たのは、ヤンキーもどきの根岸 王だ。佐渡にいるトキみたいなリーゼント。短ランに異常に長い襟。紫のカラーが入ったグラサン。そして、モアイみたいな顔。こいつ、どんな人生歩めばこういうことになるんだ?すべてが謎の人間だ。一応、俺の友達でもある。


「フルネーム止めろ。普通、言わないだろう」


「孝雄ー、さっさと金を出せ。金だ。ほら」


 ・・・面倒だ。しかし、この取り巻きの連中・・・。青の制服?・・・確か、西高の奴らじゃないか?西高ってすごいやばい学校って噂だ。というか、ヤンキーをスカウトするヤンキーもどきって何考えてんだ?


「根岸・・・。お前、流石に西高はやばいって。」


「うるさい!お金出したんだ。今日こそ、お前をぎゃふんと言わせてやる。」

 

 久々にぎゃふんって聞いたな。リアルで言うやついたのか。


「さっさと金出せや!おい!」


「殺すぞ!あぁ!?」

 

 ・・・怖い。逃げたい。

「怖ッ・・・・。」

 

 間にいる根岸が怯えていた。


「いや、何でお前がビビってんだよ。」


「ばか、西高だぞ。末端の人間でも、やばいんだぞ。」


 いや、お前が呼んだんじゃねーか。なんだこいつ・・・。こいつのバカさ加減にはほどほど頭を抱ええる。

 

 根岸はよく、俺にちょっかいを出してくる。この前は、南高のヤンキーを連れてきた。すぐに蹴散らすと、奴は土下座してきた。そして、奴のおごりでラーメンを食べた。あいつとは腐れ縁なのだと思った。


「っち、おいマサ行こうぜ。先輩が呼んでる。」


「あ?でも金が・・・。」


「いいよ、もう。なんかシラケた。」


 なんか知らないが取り巻き達が帰っていく。あぁ・・・疲れた。


「おい!西高の下っ端!金やるんだ!さっさとこいつを殴れよ!バカ!」


「バカはお前だ!西高の生徒だぞ?!」

 

 だが、もう遅かった。西高の二人が振り返った。


「あ?クソ眼鏡。殺されてーのか?誰に指図してんだ?」


「いや・・・その・・・。」


じりじりと根岸は追い込まれていく。ちッ、根岸がやばい。仕方ない。俺はダッシュして根岸を蹴り飛ばした。


「オフッ!?」


「あ?」


根岸を蹴っ飛ばし、俺は坊主頭の男を殴った。


「おらぁ!」


「ぶっ!」


 坊主頭のヤンキーを吹っ飛ばし、俺は根岸の手を引いて、校門をくぐった。

ヤンキーたちは、罵声を浴びせてきていたが、俺にはもう関係なかった。


 〇×県立志田高等学校 ここは文武両道を謳っている学校で、特にサッカーや野球が盛んな学校である。そこの2年A組が俺のクラスだ。このクラスは、いわゆるアホの集まりだ。その証拠に根岸がいる。あと、ほかの人間はというと・・・。


「よっ!!お前、痴漢に間違われたんだって?ダッセー!」

 

 そう、この声のかけ方を間違えているこいつは、油田 翔。あだ名はアブちゃん。彼は、サッカーが得意で、県大会で優勝をしているチームのMFだ。MFがどんなポジションなのか、俺にはわからない。だってサッカーより野球の方が好きだし。根岸と違って、顔立ちがよくカッコイイ。なので、クラス一他校の女子生徒からモテる。では、自分の学校ではどうか。それは、このクラスにいるということは、こいつもアホだからだ。


「アブちゃん・・・。見てたのか?」


「いや、サッポロのTikTokに上がってた」


「あの女・・・」


俺は、当の犯人を捜した。まだ学校には来ていなかった。


ガラッ


教室の扉が開いた。


「おっはよー!諸君!」


こいつがサッポロこと幌尻 彩花。今時の女子高生という感じだが、こいつもクセがある。まずは、柔道の黒帯。その実力はやはり県大会で優勝するほどだった。こいつも良くモテて、特に女子から人気があった。あと、意外とグラマラス(おっさんかッ!)だが、そんな目で見たことなかった。だってアホだし。


「サッポロさんよー!てめ、何撮ってくれてんだ!」


「だって、あんな面白いもの中々撮れないし。結構バズッたんだから」


「お前な・・・。俺の人生何だと思ってんだ?」


俺は早々に頭痛がした。こんなやつらと一生で3年しかない貴重な高校生活の2年を台無しにされた。

 

 あれは、1年のときだ。担任の田中 猛先生が俺ら(15名)を集めて、言った。


「君たちは腐ったみかんです。えー、君たちは、とても成績が悪く、おまけに素行も悪い。よって特別教室行に決定しました。これから3年間、君たちは特進の生徒よりいい点を取れば話は別ですが、同じクラスメイトと過ごしてもらいます。」


「え?」


「なお、一切の質問を受け付けませんので。」


 田中先生は、腐った目で俺たちを・・・・遠くを見ていた。おそらく、この人も、腐ったみかんなのだろう・・・・。だって、スーツヨレヨレだし。


 腐ったみかんたちは、害しかなかった。特に根岸は、往々にして目立っていた。そりゃあ、あの金髪のモアイで頭も悪いんじゃ、仕方なかった。 


 このクラスは呪われている。とまで噂が流れた。というのも、教室では奇声が聞こえるという。それは、今もぶつぶつと何か唱えてる伊江 竜司のせいだ。彼は、自分が教祖だといつも言っている。それはFF教。ちなみに、俺はニッチなイース派だ。それは置いといて、彼はいつも魔術を唱えるが、パンクな見た目で、髪はツンツンにして、もちろん金髪。口癖は、「関係ないね。」それは、柴田恭兵だと言いたいが、おっさん趣味がバレるので、いつも口を慎んでいる。そしてこいつもアホだ。


 F組が喧嘩をしたこともある。長崎 沙羅は女ながら、番長である。他校の、最も恐れる西高にもその名は轟いていると噂だ。彼女は、昭和の番長風な恰好で、下駄に女でさらしを巻いている。正直、多感な時期の男子からは目のやり場に困る。そんな彼女ももちろんアホだ。


 そんなこともあった1年前を振り返っていると、三味 総司が声をかけてきた。


「兄さん、今日転校生来るらしいでさぁ。」


 俺を兄(あに)さんと呼ぶ総司は少し変わっており、どこか江戸っ子口調だった。彼は落語部の部長をしている。古典はとてもできるが、他がアホなため成績が壊滅的だった。だが、総司の名に負けず、顔は童顔で可愛い顔をしている。


「転校生?このクラスに?」


「なんか、場総女子高からの転校生らしいでさぁ。こいつがいい女らしいんでぃ。」


 女・・・・。これは、少し楽しみだった。それを聞いた大井 次郎は鼻息を荒くして、腕をまくった。彼はレスリング部で、筋トレが趣味だった。すべてを筋肉に全振りしている分、当然アホだった。


「次郎・・・、上は着とけ。」


「何故だ。男は筋肉を見せてなんぼだろう?」


無駄に大胸筋がピクピクと動いていた。気持ち悪い。

 

 そうこうしてるうちに、田中先生が教室に入ってきた。


「腐ったみかんたち。今日は転校生を紹介します。」


教室がざわつきだした。転校生・・・どんなのだろうか。まぁ、このクラスに入るのだ。アホなのだろう。残念だが、そういう烙印を押されるのがこの学園の宿命だ。


「・・・・・・・・・。」


 アホというのは失礼と思うほどとても可憐で、日本人形のようであった。


「彼女は山田 若菜さんです。軽度の知的障害があるそうです。えー、簡単に言うと、支援が必要な方です。主に覚えるということ、計算、言語化、運動、ほとんどが苦手です。本来は支援が必要です。ですが、本人とご家族の意思でこの学園の、このクラスに転校しました。」


 若菜・・・・。山・・・・。あだ名は和歌山だな。と根岸は言った。このアホ。と少し笑ってしまった。


 すると、若菜さんの様子がみるみるうちに変わった。頭を抱えた。過呼吸になった。焦点が合っていなかった。泣いてしまった。


「孝雄!お前、転校生を泣かすとは!」


「馬鹿!オメーが下らねぇこと言うからだろ!」


 そして、若菜さんは、副担任の水戸 麗子先生に慰められた。



彼女とは、その日以来、崩すのに時間がかかる壁が出来た。



この物語は、彼女の壁を壊す物語・・・・・・・


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問題児だらけの教室に、心に何かを抱えた女子高生となんとかしたい男子高校生の愛と青春ラブコメです


つたないですが、ゆっくり更新したいと思います。

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