第23話

 躑躅森が柔道部員たちに指示して、二つの大の人形と、高さ1メートルはあろう巨大なたるを武道場の畳の上に運ばせた。


 二つの人形のうち、一つは極太眉の角刈りで、もう一つはキノコ頭の眼鏡だ。

 樽の方には、あちこちに縦長の穴が幾つも空いている。


 ――そして、躑躅森が樽の上部にある窪みに、二つの人形をはめ込んだ。


「今回のゲームもルールは至ってシンプル。プレイヤーが樽に空いた穴にオモチャの短剣を交互に刺していき、先に相手の人形を飛び出させた方の勝利だ」


「……なるほど。早い話が『黒ひげ危機一髪』ですね」


「違う。『グサッと一発』だ」


 花屋の発言を躑躅森が即座に訂正する。


「まず最初にプレイヤー二名には樽に空いた20個の穴の中から、一つ『急所』を選択して貰う。ゲームは相手に『急所』の穴を短剣で刺された方の負けということになる。『急所』の選択で指定した穴が両者で被ってしまった場合は、再度選び直して貰う」


「…………」


 なるほど。『黒ひげ危機一髪』との大きな違いは、飛び出す人形が二つあって、それぞれが自分の人形が飛び出す『急所』の位置を指定できるという点にあるようだ。


「ですが、運の要素だけで決着が付いてしまうというのでは、ゲームとしてはいささか面白みに欠けます。躑躅森先輩が考案したゲームなのですから、当然、他に何らかの仕掛けやルールがあるんですよね?」


 花屋がニヤニヤしながら躑躅森に言う。


「ふん、嫌味な奴め。無論、このゲームは運だけで勝てる程甘くない。プレイヤー二名には、それぞれにシール型の心音電極を胸に装着して貰う。つまり攻撃のターン、プレイヤーは相手の心音の変化を手掛かりにしてどの穴に短剣を刺すかを選択できるということだ」


「……なッ!?」


 それでは、幾らポーカーフェイスで動揺を隠しても、心音が早まれば『急所』の位置がモロバレになってしまう。


「ふははははーッ!! このゲームに求められるのは、小賢しい頭脳戦や駆け引きではなく、心の強さ、即ち精神力ということだ。俺はこのゲームで過去に負けなしッ!! 心身共に強靱に鍛え抜かれた、この俺に正にピッタリなゲームというわけだッ!!」


 柔道部・部長の卍山下の笑い声が武道場中にこだました。


「…………」


 花屋は勝負事に関して無類の強さを誇るが、それはルールの隙を突く機転の良さと、相手のイカサマを瞬時に見抜く洞察力によるところが大きい。


 だが、もしも相手が運と精神力だけで勝負をしてくるギャンブラーだったとき、花屋は一体どうやって戦うつもりなのか?


「更に、各プレイヤーには10本ずつプラスチック製のオモチャの短剣が配られる。短剣には金、銀、銅の三種類があって、色によって相手の『急所』を刺したときに奪える金額が異なってくる。7本持っている『銅の剣』なら30万円、2本の『銀の剣』なら50万円、1本しかない『金の剣』なら100万円といった具合にな」


「ブラボー!! 流石は躑躅森先輩です。とても面白そうなゲームですね」


 しかし、当の花屋は嬉しそうに手を叩いて大喜びしていた。


「……ちょっと花屋君、もしも『金の剣』で『急所』を刺されたら100万円もの大金を失うんだよ!? しかも対戦相手の卍山下先輩は現役バリバリのアスリート。精神面において、花屋君とは天と地程の差がある相手じゃないか!?」


「えー。そんなの、やってみないとわからないじゃないですか」


 花屋が頬を膨らませて反論してくる。

 ……いや、逆に何でそんなに自信があるのか知りたいくらいなのだが。


「それに今、僕はこのゲームにおける秘策を思い付きました」


「……秘策?」


「吉高さん、ちょっと耳を貸してください」


 花屋がわたしの耳元で、ある作戦を話す。


「…………」


「ほらね、これなら僕にも勝機があるでしょう?」


「……うーん。本当にそんなに上手くいくのかなァ?」

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