グサッと一発

第22話

 わたしと花屋はなや躑躅森つつじもりの後に続いて、長い長い渡り廊下を歩いている。


「……あの、躑躅森さん、これどこに向かっているんです?」


「付いてくればわかる」


「……次に花屋君が戦う相手ってどんな人なんですか?」


「それも付いてくればわかる」


「…………」


 何を質問しても、躑躅森は全く答えようとしない。会話が続かず三人で黙って廊下を歩き続けるのは、酷く居心地が悪かった。


「……っていうか花屋君、これもうわたし付いて行く意味ある? 別にわたしいなくてもいいよね?」


「何を言っているんですか、吉高よしたかさん。吉高さんがいなくなったら、よく知らない上級生の中にポツンと一人でいなきゃいけなくなるじゃないですか。そんなこと、僕に耐えられると思います?」


「……いや、余裕だろ。君が人見知りをするようなタマかよ」


「吉高さん、僕を見捨てないでください」


 花屋が捨てられた子犬のような目でわたしを見てくる。


「……あー、もう、わかったよ。最後まで見届ければいいんだろ。ところで、花屋君のこれまでの活動は全部になることが目的だったってことでいいのかな?」


 これまでの花屋の対決を見るに、お金の為というよりギャンブルそのものを楽しんでいたような節がある。

 将棋部との『下克上回り将棋』対決で得た四万円を全てわたしに渡して被害者に返却させたのも、一円の得にもならない松戸まつどとのカード当て対決に協力してくれたのも、それらは全てに自分の存在を知らせる為だったのではないか?


 そして、遂に加岳井かがくい犀子さいこを『積羽沈舟せきうちんしゅう』で破り、になるチャンスを得た。


「バレましたか。実は僕が片倉かたくら高校を受験したのも、全てはになる為だったりします。になることができれば、一般生徒にはない三つの特典を受けることができます。①校内限定ではありますが、生徒同士のギャンブル対決が黙認されます。②生徒会が対決に立ち合って、勝負を取り仕切ってくれます。③お金がなくても最大200万円まで、生徒会が無担保で融資してくれます。うーん、考えただけでよだれが出てきました。正に薔薇ばら色の学園生活ではありませんか」


 花屋がうっとりとした表情を浮かべて言う。


「…………」


 一般常識で考えれば、とても健全な学園生活とはいえないだろう。


「着いたぞ」


 躑躅森に連れて来られた場所は武道場だった。そこでは柔道部が熱心に乱取りの練習を行っていた。


「……ここに花屋君の次の相手が?」


「よォ、躑躅森。お前の方から俺に会いに来るなんて珍しいじゃねーか」


 そう言ってわたしたちの前に現れたのは、身長190センチはありそうな柔道着に黒帯を締めた大男である。タワシのように短く刈られた髪に太い二本の眉が、否が応でも男らしい印象を与えている。


「加岳井がギャンブル対決で野良の一年に敗北した。このままにしておけば、『賭博生徒会』の沽券こけんに関わる」


「……なるほど。それで生徒会のお前が慌てて俺のところに来たってわけだ。俺は柔道部・部長の卍山下まんじやました篤郎あつろうだ。で、加岳井を倒したってのはどっちだ?」


 大男、卍山下はわたしと花屋の顔を交互に見ながらペロリと上唇を舐めた。


「初めまして、一年の花屋です。お手柔らかにお願いします」


 花屋は特に物怖じした様子もなく卍山下にペコリと頭を下げる。


「ふん。加岳井をやり込めたくらいで調子に乗るなよ、小僧。この俺がのギャンブルの恐ろしさをとくと味わわせてやる」


「おやおや、加岳井先輩の話では、他のは皆加岳井先輩との勝負を避けているとのことでしたが違うのですか?」


「ふははははッ!! これは傑作ッ!! 他のが加岳井との勝負を避けるのは、奴を恐れているからではない。単純に、賭け金が低過ぎるからだ。俺とのギャンブル対決はあんな遊びのようなチャチな金額じゃない。花屋とか言ったな、引き返すなら今のうちだぞ?」


「……そうですか。それは楽しみです」


「…………」


 花屋と卍山下。わたしには二人の間にバチバチと火花が散るのが見えたような気がした。


「それではこれより、ゲーム名『グサッと一発』のルールを説明する」

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