モリールは金のためだけに死体を消します。
PURIN
第1話
「ちょっとさ…… 金、貸してくれないか? 1万でもいいからさ」
仕事からの帰り道。缶ビールをチビチビやりながら帰路についてたら、大学時代からそこそこ仲良くしていた先輩と偶然会った。
「そういや最近、大学時代のメンバーの飲み会誘っても来ないじゃないっすか」
「いや、ちょっと体調に気を付けないといけないかなって」
「なんか病気でもしたんすか? 目もそんなですし」
「そ、そういうわけじゃないんだけど…… 体調のことだけじゃなくて、会社の後輩の女の子が急に来なくなっちゃって、仕事が忙しくもなったし……」
なんて会話をしながら横並びに歩いてたら、先輩が脈絡なく冒頭のセリフを発した。
「はあ? 無理っすよ。先輩、俺が貧乏なの知ってるでしょ? ガキにも金がかかって仕方ないんだし」
自分で「ガキ」と言っておいて、背筋にスッと冷たいものが走った。
先輩は俺の内心など知る由もなく「そ、そうだよね。そういえばお子さん連れの人と結婚したんだもんね」と苦虫を噛み潰したような顔で笑って、右目を覆う白い眼帯を少しずらした。
「なんで金必要なんすか? いや、1円も出せませんけど」
「本当に大したことじゃないんだよ! ごめん!」
無理やり作ったような笑顔で、両手を前に出して振りながら笑う。
よく見れば右目の眼帯だけでなく、最後に会った時より痩せているし、服や鞄もくたびれているように見える。なんとなく心配になった。
少し迷ったが、まあ大丈夫かと思い、先輩をうちに上げて缶ビールの1本くらいは飲ませてあげることにした。先輩も遠慮はしつつも結局ついてきたから、本心では飲みたかったんだろう。
「ただいまー」
「お邪魔します」
アパートの階段を上り、玄関ドアを開ける。
そういえば、妻には何も連絡をしていない。
ちょっと上がってもらうだけとはいえ、いきなり連れてきたら驚かせてしまうかもしれない。今更そんなことを思った。
「えっ、ちょっ、あんた……」
案の定、妻は驚いた顔をしていた。
案の定じゃなかったのは。
畳に座る妻の手に布団圧縮袋があったこと。
その中に、1週間ほど前に死んだガキの死体が入っているのがバッチリ見えたことだった。
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