キャリア採用の上司に煉獄杏寿郎さんが憑依したので、会議の終わりが見えなくなってしまった!
小林勤務
第1話 会議
私「え~、それではこれで結論がでそうですね」
同僚「長かったですね」
キャリア採用の課長「……」
同僚「さあ、夜も遅いし早く帰りましょう」
私「そうですね、早く帰りましょう」
キャリア「よもやよもやだ。まだ何も終わってないだろう」
私「えっと……」
同僚「すいません、今までの流れで結論が出たと思いますが……」
キャリア「よもやよもやだ。まだまだだ」
私「あの……何か問題があったんですか? 今まで課長は何にも発言してこなった気がするんですが……」
キャリア「当然、問題もありありだ! 俺は俺の責務を全うする。ここにいる者たちは誰も会議室から出さない」
同僚「すいません、もう定時を超えていて、このままだと帰るのが終電になりそうなんですが……」
私「そうですよ。それに議題も議題ですし、そこまで重要な会議とは思えません」
同僚「今日、何時間もかけて打合せしているのは、単に課長が部長に説明する【会議のための会議】ですよね? 重要性が高いものとは……」
キャリア「まず言わせてもらうと、君とは初対面だが、俺はすでに君のことが嫌いだ」
同僚「えっと……初対面ではありませんが……」
キャリア「まず第一に、君たちが真剣にこの会議に取り組んでいたとは俺は思えない。君たちはこの会議に心を燃やしていたのか?」
私「いやいや、我々はこのような【会議のための会議】でも真剣に打合せしたと思いますよ。それに、課長は今まで我々が話していたのを単に聞いていただけじゃないですか」
キャリア「俺は全集中して、この会議の行く末を見届けていた」
同僚「それって、単に聞いていただけなんじゃ……」
キャリア「聞いていただけじゃない。全集中して会議の行く末を見届けていたんだ。何度でも言おう。俺と君とは価値基準が違う」
同僚「は?」
キャリア「俺はMarchを主席で卒業したエリートだ。俺は俺の力を信じている」
私「……はあ」
同僚「付き合ってられないです。我々は早く帰りたいんです」
キャリア「何を言っている。君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない。なぜ、結論も出ていないのに、仕事を途中で投げ出すんだ」
同僚「百歩譲って、この会議が社運を左右する重要な打ち合わせなら話は別です。今回の会議が、単に課長が部長に説明する会議の前に、どうやって説明するかを打合せる、言わば課長の保身的な【会議のための会議】ですよね」
キャリア「会議に優劣などあるわけなかろう。何度でも言うが、俺と君とは価値基準が違う。部長の説明にも全力で責務を全うするのが、男子たるものの本懐であろう」
私「申し訳ないですが、私たちは課長の保身に付き合ってられません」
同僚「もう帰らせて頂きます」
キャリア「待て! 今まで何も発言していなかったのは、柱として不甲斐なし! 穴があったら入りたい! しかし、まだ結論が出ていない以上、君たちを帰らせるわけにはいかない」
同僚「どうでもいいんですが、これって残業代でるんですか? こんな仕事のために深夜まで働きたくないです」
キャリア「残業代はでない。それこそ柱たる俺の管理責任が問われてしまう。なに、大丈夫だ。呼吸を極めれば様々なことができるようになる。何でもできるわけではないが、昨日の自分より確実に強い自分になれる」
私「強さと残業代は別問題だと思います」
キャリア「それが心の弱さだ。心を燃やせ。そうすれば、深夜まで会議はできるはずだ」
同僚「よくわからない理由で、連日深夜まで会議会議で、このままでは死んでしまいますよ」
私「しかも、ほとんどの会議が課長の保身的な【会議のための会議】です」
同僚「そうです! こんなんじゃ過労死しますよ!」
キャリア「老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ」
私「全く尊くないです」
同僚「こんな下らない会議のために死にたくないです」
キャリア「大丈夫だ。このような会議を通じて、皆はもっと強くなれる。どんな仕事でも胸を張って生きろ」
同僚「こんな仕事、誰にも誇れませんよ」
私「ほんと、キャリア採用って使えないっすね」
キャリア「なるほど、キャリア採用は使えないか……。はははははははははははははは! うまい!うまい!うまい! 君はうまいこと言う!」
私「……全然うまくないです」
現在21:50
もうすぐ深夜残業――
キャリア採用の上司に煉獄杏寿郎さんが憑依したので、会議の終わりが見えなくなってしまった! 小林勤務 @kobayashikinmu
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