第3話

 特別捜査本部が新宿中央署に立てられたのは、事件発生から十二時間後のことだった。三階にある大会議室には新宿中央署員だけではなく、警視庁捜査一課からも捜査員たちが大勢集まっていた。新宿中央署公園西交番襲撃事件特別捜査本部と書かれた戒名看板が、捜査本部として使われている大会議室の入り口に立てられている。

 捜査員の一人として富永も捜査会議に参加したが、会議室の中に入ると明らかに空気は張り詰めており、いつもと雰囲気が違っていた。そんな中でも新宿中央署地域課の西村課長などは募る苛立ちを隠そうとはせず、捜査一課の人間の発言に対して食って掛かったりするほどだった。


 被害者となったのは、当日交番で宿直勤務に当たっていた地域課の二名で、交番長である佐倉警部補と戸川巡査であった。

 交番内に設置されていた監視カメラの映像から、事件発生時刻は午前四時三分であることが判明している。その時刻に交番を訪れたニット帽にマスクといった姿の人物が、勤務中であった戸川巡査に襲い掛かった。戸川巡査は、鋭利な刃物で首を切りつけられていた。警棒を抜いて抵抗したが、抵抗虚しく、出血多量のため死亡した。

 交番の奥では、佐倉警部補が休憩をしていた。物音に気付いて、仮眠室から飛び出して来た佐倉警部補は侵入者と対峙した。威嚇射撃を含む、計二発の銃弾発砲を行ったが、弾は外れ、ロッカーに命中。侵入者に当てることは出来なかった。その後、佐倉警部補と侵入者は格闘となったが、戸川巡査と同じように首を鋭利な刃物で切られ、佐倉警部補は死亡した。

 二人の警察官を殺害した犯人は、戸川巡査と佐倉警部補の拳銃二丁を強奪。また、戸川巡査の警察手帳と手錠も無くなっていることから、犯人がそれも持ち去った可能性が高い。

 現職警察官二名殺害と拳銃強奪。近年まれにみる凶悪犯罪だった。

 新宿中央署に立てられた特別捜査本部では、捜査本部長として警視庁捜査一課長である緑川警視正が就き、捜査一課の幹部たちが脇を固める形となった。二〇〇人態勢の捜査。警視庁が、この事件に警察の意地を掛けているということがよくわかった。


 富永は捜査一課の小暮という中年刑事とコンビを組み、被害者の交友関係先を当たることとなった。佐倉については剣道仲間だったため、ある程度の交友関係は知っていたが、若い戸川については署内で顔を合わせた時に向こうが会釈をする程度で、プライベートなことは何も知らなかった。

「富永さんは、佐倉警部補については色々と知っていたようだから、そっちから当たりますか」

「ええ」

「実際どうですか、佐倉警部補は誰かから恨みを買っていたとかは」

「無い……と思います」

 こればかりは全否定をすることはできなかった。確かに佐倉は剣道仲間ではあったが、富永もそれ以上のことは何も知らなかった。佐倉には剣道以外の交友関係も、きっとあったはずだ。

「まあ、それを調べるのが仕事か」

 小暮は呟くようにいうと、捜査車両の運転席に座った。車の運転は交代で行う。それは小暮とコンビを組むことになった時に決めたことであり、じゃんけんをした結果、小暮が先に運転することとなった。

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