百面相
@tutimoko
百面相 trailer 1
・暗闇の中一つの灯りを頼りに飲み物を淹れる女。質素な黒いロングスカートに小さなイヤリングを身に付けた姿は、地下で意識を失っている使用人と全く同じ。2つのコップには紅茶を注ぎ、三つ目にはコーヒーと内ポケットに入っていた試験管の中身を注いだ。空になった試験管を再び内ポケットに隠し、よくかき混ぜて匂いに変化がないかも確認する。静かな夜だったが彼女の周りだけ尋常ではない緊張が纏わりついていた。肩にかかる黒髪を丸く結え、香水を体中に振り撒く。準備ができたようだ。深呼吸をして時計を見る。
12時26分
ロングスカートの裏に銃を隠し、盆を持って歩き出す。2階のある部屋に入る前彼女は強張った顔を無表情へと変え、部屋に入って行った。
部屋にいたのは180㎝はある強靭な男とその妻、調査書を広げて話をする若い男の3名。強靭な男は若い男が一生懸命する話をつまらなさそうに見ている。この強靭な男は公爵と呼ばれる男で、この館の主人である。
女は公爵にコーヒーを、残りの二人には紅茶を渡し部屋の外で立っていた。暗闇で死んだように無表情をキープし続けるその姿は幽霊をも連想させる。数分して話も終わり男は資料を置いて出て行く。妻ももう寝ると言って出て行く。静寂の中彼女はドアの向こうに耳を傾けていた。公爵の独り言が聞こえる。
「こんな研究成功するはずないのになぁ。なんでこんな大金掛けるんだか。」
だが平和なのもここまでだった。
コーヒーカップを床に落とす音が公爵の呻き声とほぼ同時に聞こえる。
ドシャン!! ドシャン!!
公爵は苦しみでもがき始め、書斎机を叩き床に転がり落ちる。
「誰かいないのか…」
叫んでも無駄だ。部屋の近くには女しかいない。
激しい発作が始まって数分後部屋には静寂が戻っていた。公爵は床に転がったまま少しばかり痙攣しつつももう息も絶え絶えといった状況である。女はゆっくりとドアを開けて中の様子を確認する。女の口元には今夜初めて見せる不気味な笑みがあった。公爵の頭に銃口を向け公爵の敗北が確信されるその瞬間、低い声が部屋に響いた。
「レディ、残念だよ裏切りなんて。」
血のついた口は笑っていた。女は声には動じず、ただ頭に銃口が向いていた。公爵の話なんて聞くつもりはないとでも言うのだろうか。あとは女が引き金を引くだけで公爵の脳が吹っ飛ぶ。普通の人間であれば命乞いをするしか生きる術はないだろう。だが公爵は普通の人間ではなかった。
女が引き金を引く。だが放たれた弾は命中せず床を傷付けていた。公爵が背後にいるのが分かる。でもそれを振り向く間はなく、女は圧倒的な力差で吹き飛ばされる。壁に打ち付けられた女は更なる一撃は回避したものの、不利な状況に変わりない。しばらく殴って避けてが続くが、とうとう男の拳一撃が女の腹に命中し女は床に叩きつけられた。
ドサっ!
「毒なんてレディらしいなぁ。君が誰か分かっているよ。*百面相で化けているだけなんだろう?」
倒れる女の横に立ち、勝ち誇った顔で八重歯を光らせる。公爵は毒で弱ってはいたが筋力のないこの女一人殺る力は残っていたようだ。それが女の最大の誤算で、そう思い込んだのは男の誤算でもあった。男は完全に油断していた。
「まぁ確信は持てないから2日か3日手錠と友達だ。」
男は女に覆い被さり手錠をかけ、髪の毛に触れた。
「女の匂いがする。」
男はキモい奴だった。百面相は見た目と声は変装できても匂いは変えられない。男が女の首に触れた時だった。
ゔぅっ
女は手錠のされた手で銃を公爵の腹に放った。公爵の顔から笑みは消えない。だが一瞬の間に青くなっていく。さすがの公爵といえこれは重傷である。
「意気のいい獲物だ…」
公爵は口から血を垂らしながら女に最後の力を加えた。書斎机で横倒しとなったインクの瓶からは黒い液体が書類を部屋を汚していた。
*百面相
・他人と全く同じ顔、声になれる能力。変装効果時間は1日2日が限界
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