第10話 迫り来る包囲網と第六の影
政府の影が忍び寄る中、悠斗たちは秘密裏に連絡を取り合い、情報交換を続けていた。暦の未来跳躍、瑠璃の予知、葵の未来視、紫苑の象徴的な未来視。五つの異なる未来を捉える力は、まるでパズルのピースのように、少しずつ重なり合い、彼らの進むべき道を示唆していた。
しかし、未だ見つからない二人の能力者の存在は、彼らに焦燥感を与えていた。特に、一条葵が予知で見ることのできない、より遠い未来に関わる能力を持つ者がいる可能性は、彼らの不安を掻き立てた。
そんな中、大学内で、政府らしき人間を目撃する頻度が増えていた。神崎凛のような威圧感のある人物だけでなく、一般の学生に紛れて、不自然なほど周囲を観察しているような者もいた。彼らの包囲網は、着実に狭まっているように感じられた。
ある日の放課後、悠斗は暦と二人で、大学近くの公園のベンチに座って話し合っていた。
「政府の監視、ますます厳しくなっている気がするんだ。このままじゃ、いつか捕まってしまうかもしれない」と悠斗は不安を隠せない声で言った。
暦は空を見上げながら答えた。「彼らは、私たちの力を危険視している。そして、他の能力者たちも、私たちと同じように探しているはずです」
その時、暦はふいに顔をしかめた。「悠斗くん……少し、嫌な予感がします」
「どんな予感?」
「何か……大きな出来事が、すぐそこまで迫ってきているような……」
暦の言葉に、悠斗の心臓が早鐘のように打ち始めた。彼女の予感は、これまでにも何度か的中している。
その予感は、その日の夜、現実のものとなった。
悠斗がアルバイトを終え、アパートへの帰り道を歩いていると、背後から複数の足音が近づいてくるのに気づいた。振り返ると、黒いスーツを着た数人の男たちが、無表情でこちらに歩いてくる。その中には、以前大学で見かけた、監視しているような雰囲気の男もいた。
彼らは何も言わず、有無を言わさず悠斗を取り囲んだ。悠斗は抵抗する間もなく、男たちによって強引に連れ去られそうになった。
「な、何をするんですか!離してください!」
必死に抵抗する悠斗だったが、男たちの力は強く、全く歯が立たない。連れて行かれそうになったその瞬間、悠斗の脳裏に、あの奇妙な感覚が蘇った。
時間が止まる。
周囲の音が消え、男たちの動きがピタリと止まった。悠斗だけが、その静止した世界の中で、自由に動くことができる。
「今だ……!」
悠斗は咄嗟にそう思った。この隙に逃げるしかない。しかし、男たちの人数は多い。全員を振り切って逃げるのは難しいだろう。
その時、悠斗の目に、近くの路地に人影が見えた。それは、見慣れない少女の姿だった。黒い帽子を目深に被り、顔はよく見えない。しかし、そのシルエットには、どこか不思議な雰囲気が漂っていた。
悠斗がその少女に目を向けると、少女はゆっくりと顔を上げた。帽子の影から覗く瞳は、深い深い、吸い込まれそうなほど黒かった。
その瞬間、悠斗は再び激しい頭痛に襲われ、時間の流れが元に戻った。
「くっ……!」
時間の再開と共に、男たちの拘束が再び強まる。しかし、ほんの一瞬の出来事だったにもかかわらず、悠斗は先ほどの黒い帽子の少女のことが頭から離れなかった。彼女は一体何者なのか?なぜ、あんな場所に一人で立っていたのだろうか?
連れ去られそうになったその時、 思いがけない出来事が起こった。
路地から、信じられない速さで何かが飛び出し、男たちを次々と吹き飛ばしたのだ。それは、見たことのないエネルギーのようなものだった。
男たちは苦悶の表情を浮かべながら地面に倒れ伏し、悠斗を取り囲んでいた包囲網は、一瞬にして崩れ去った。
悠斗は呆然とその光景を見つめていた。一体何が起こったのか?
エネルギーが吹き荒れた方向を見ると、そこに立っていたのは、先ほどの黒い帽子の少女だった。彼女の手からは、微かに黒い光が立ち上っているように見えた。
少女は静かに悠斗に近づき、低い声で言った。「早く逃げてください」
その声には、強い力と、ほんのわずかな優しさが込められていた。
悠斗は、状況を理解するよりも先に、少女の言葉に従って走り出した。背後では、倒れた男たちが呻いているのが聞こえた。
少女は悠斗をしばらくの間、人気のない路地裏へと導き、安全な場所まで連れて行ってくれた。
「あ、ありがとうございました。助かりました」
悠斗は息を切らしながら、少女に感謝を述べた。改めて見ると、彼女は悠斗とそう変わらないくらいの年齢に見えた。
少女は無表情のまま、静かに言った。「あなたは、追われています。彼らは、あなたのような力を持つ者を捕らえようとしています」
「あなたは……一体、何者なんですか?」
悠斗が問いかけると、少女は少し間を置いてから、低い声で答えた。「私の名前は、黒瀬 深月(くろせ みつき)と言います。私も、あなたと同じです」
「同じ……?もしかして、あなたも能力者なんですか?」
深月は頷いた。「私の力は、影を操ることです」
彼女がそう言うと、周囲の影がゆらりと揺れ、まるで意志を持っているかのように蠢いた。先ほど男たちを吹き飛ばしたのも、彼女の能力だったのだ。
「あなたは、政府に目をつけられています。このままでは危険です」と深月は警告した。「もしよかったら、私と一緒に来ませんか?あなたと同じような力を持つ仲間たちが、他に数人います」
深月の予想外な誘いに、悠斗は戸惑いを隠せなかった。しかし、今夜起こった出来事を考えると、政府の脅威は現実のものとなっていた。彼女の言葉は、まるで暗闇の中で差し伸べられた一筋の光のように感じられた。
「仲間……ですか?」
「ええ。私たちなら、政府の企みを阻止できるかもしれません」
深月の言葉には、強い確信が込められていた。
悠斗は、暦や瑠璃、葵、紫苑の顔を思い浮かべた。彼女たちもまた、同じように政府に狙われているかもしれない。深月と共にいることが、彼女たちを守ることに繋がる可能性もある。
「分かりました……あなたと一緒に行きます」
悠斗がそう答えると、深月はわずかに頷き、再び無表情に戻った。「では、行きましょう」
こうして、悠斗は、 思いがけない形で、第六の能力者、黒瀬深月と出会い、新たな仲間と共に、政府との戦いに身を投じることになった。残るはあと一人。そして、政府の包囲網は、彼らが想像するよりも、遥かに広大な ものなのかもしれなかった。
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