第8話 赤い髪の予言と紫の沈黙

秘密の会合の後、悠斗はまず一条葵との接触を試みた。彼女は明るく誰とでもすぐに打ち解けるタイプなので、比較的コンタクトを取りやすいだろうと考えたからだ。


翌日、悠斗は大学の食堂で葵を見つけ、声をかけた。「一条さん、少し時間ありますか?」


葵はいつものように笑顔で振り返った。「もちろん!どうしたの、雨宮くん?」


悠斗は、先日葵が雨を予言した時のことを切り出した。「あの時、一条さんはどうして雨が降るって分かったんですか?」


葵は少し不思議そうな顔をした。「え?なんとなく、そんな気がしたんだよね。空の色とか、空気の匂いとか……」


「それって、結構当たるんですか?」と悠斗がさらに尋ねると、葵は「うん!結構な確率で当たるよ!たまに外れることもあるけどね!」と、屈託のない笑顔で答えた。


彼女の答えは曖昧で、能力を持っていることを明確に示唆するものではなかった。しかし、「なんとなく気がした」という言葉の裏には、何か特別な感覚が働いているのかもしれない。


悠斗は、直接的に超能力について尋ねるのを避け、もう少し様子を見ることにした。「すごいですね。僕は全然分かりませんでした」とだけ言い残し、その場を後にした。


次に悠斗が探したのは、図書館で出会った紫色の瞳の少女だった。彼女の神秘的な雰囲気と、まるで悠斗を探していたかのような行動が、強く印象に残っていた。


暦と瑠璃にも彼女の特徴を伝えたが、二人とも心当たりがないようだった。悠斗は、彼女が読書をしていた席を中心に、図書館内を探し回った。しかし、数日間探しても、彼女の姿を見つけることはできなかった。


まるで幻のように、あの時一度だけ現れて、消えてしまったかのようだ。しかし、確かに悠斗は彼女を見た。そして、彼女が自分の探していた本を知っていて、わざわざ置いてくれたという事実は、彼女がただの偶然の出会いではなかったことを示唆していた。


そんな中、政府の神崎凛からの連絡は途絶えたままだった。協力者として登録されたにもかかわらず、何の指示も説明もない。悠斗は、政府が一体何を考えているのか、ますます分からなくなっていた。


ある日の夕方、暦から連絡が入った。彼女は、最近、未来跳躍の際に、これまでとは違う映像を見るようになったという。


「それは、どんな映像なんです?」と悠斗は不安を覚えながら尋ねた。


「黒い服を着た人たちが、私たちのような能力者を探し回っている映像です。彼らの目は冷たくて、まるで何かを狩っているみたいなんです」


暦の言葉は、政府の動きが単なる管理や保護だけではない可能性を示唆していた。もし、政府が能力者を捕獲し、利用しようとしているのだとしたら……。


その不安は、瑠璃の予知によってさらに現実味を帯びた。彼女は、近いうちに自分たちの周りで、何か良くないことが起こるという予知を見たらしい。具体的な内容は分からなかったようだが、強い不安感に襲われたと言っていた。


三人は、警戒レベルを上げることを確認し合った。不用意な行動は避け、互いに連絡を取り合いながら、状況の変化に注意することにした。


そんな中、悠斗は一条葵の言葉が、妙に引っかかるようになっていた。「なんとなく、そんな気がしたんだよね」という彼女の言葉。それは、単なる勘ではないのかもしれない。


ある日、大学の講義が終わった後、悠斗は思い切って葵を呼び止め、二人で近くのカフェに入った。


「一条さん、前に言っていた天気のことなんですけど……」と悠斗は切り出した。「もしよかったら、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」


葵は少し意外そうな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻って言った。「うん、別に構わないけど……本当にただの勘だよ?」


「でも、結構当たるんですよね?」と悠斗が食い下がると、葵は少し困ったように頬を掻いた。「まあね……たまに、頭の中に映像が浮かんでくることもあるんだ。空が急に暗くなったり、雨が降ったりする映像が……」


その言葉を聞いた瞬間、悠斗は鳥肌が立った。映像が見える……それは、瑠璃の予知能力と似ている。


「それって、いつ頃の未来が見えるんですか?」と悠斗は身を乗り出して尋ねた。


「うーん……本当に一瞬だけだから、よく分からないけど……数分後とか、数時間後とか、そんな感じかな?」


葵の話は、彼女が単なる勘が良いだけではなく、未来を視る力を持っていることを示唆していた。しかも、それは暦の未来跳躍や、瑠璃の予知とはまた異なる、映像として未来を知る能力のようだ。


「それって、誰かに話したことはありますか?」と悠斗が尋ねると、葵は首を横に振った。「ないよ。こんなこと言っても、誰も信じてくれないと思うし……ただの勘だって言ってる方が楽だし」


悠斗は、葵に自分の身に起こったこと、そして暦や瑠璃の能力について、慎重に打ち明けた。最初は信じられない様子だった葵も、悠斗の真剣な眼差しと、具体的なエピソードを聞くうちに、次第に驚きと興味の色を浮かべるようになった。


「もしかして……私だけじゃなかったんだ……こんな不思議な力を持ってるの」


葵のその言葉に、悠斗は安堵感を覚えた。また一人、自分たちと同じ側の人間を見つけることができた。


「一条さん、もしよかったら、僕たちと一緒に……」と言いかけた悠斗の言葉を遮るように、葵は真剣な表情で言った。「うん、協力するよ!私にできることがあれば、何でも言って!」


こうして、未来を視る力を持つ新たな仲間、一条葵が、悠斗たちの 秘密組織に加わることになった。残るは、図書館の紫色の瞳の少女と、まだ見ぬ三人。そして、政府の影は、確実に彼らに近づきつつあった。

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