時をかける僕と七人の超能力彼女たち

@tenshoku

第1話 序章 灰色の日常と微かな光

街の喧騒から少し離れた、古びたアパートの六畳一間。蛍光灯の白い光が、安物の机の上に散らかった参考書やノートを照らしている。


「……よし、これで一通り終わったはずだ」


深夜一時を回った時刻、雨宮悠斗は疲労困憊の表情で、書き込みだらけのノートから顔を上げた。コンビニエンスストアのアルバイトを終え、帰宅してから数時間。大学の課題、明日の小テスト対策、そして何よりも重要な、成績向上のための自主学習に費やした時間だった。


雨宮悠斗は、決して才能に恵まれた人間ではなかった。むしろ、努力しなければ人並みの結果すら出せないと自覚していた。高校時代から、周りの同級生たちが難なくこなすことを、彼は人一倍の時間をかけてようやく理解できる程度。それでも、諦めるという選択肢は彼の辞書にはなかった。


「いつか、見返してやるんだ」


小さく呟いた言葉は、誰に届くわけでもなく、静かな部屋の空気に溶けていった。


悠斗が通うのは、明稜大学(めいりょうだいがく)という都内でも 中の中と言われる私立大学の経済学部。

決してエリートが集まるような場所ではないが、それでも講義の内容は彼にとって容易なものではなかった。特に専門科目は、抽象的な概念や複雑な数式が頻繁に登場し、毎回の授業が真剣勝負だった。


アルバイトも然り。学費と生活費を自分で稼がなければならない悠斗にとって、コンビニエンスストアの深夜勤務は貴重な収入源だった。しかし、体力的な負担は大きく、眠気と戦いながらレジを打ち、商品の陳列を行う日々は、精神的にも決して楽ではなかった。


それでも悠斗が努力を続けるのは、明確な目標があったからだ。それは、一流企業への就職。学歴フィルターという言葉が囁かれる現代において、彼の通う大学の名前は決して有利に働くわけではない。だからこそ、誰よりも努力し、目に見える結果を出すことで、社会に認められたいと強く願っていた。


「成績優秀者として、推薦枠を掴むしかない」


それが、悠斗が現在置かれた状況で、最も現実的な戦略だった。教授からの評価を上げ、好成績を維持し続ける。そのためには、日々の授業への真摯な取り組みはもちろん、自主的な学習が不可欠だった。


机の隅には、使い古されたスマートフォンが置かれている。通知ランプが点滅しているが、悠斗はそれを無視した。SNSを開けば、友人たちが楽しそうに過ごしている投稿が目に入るだろう。それは、今この瞬間の彼の努力を嘲笑うかのように思えた。


窓の外では、雨足が強くなってきたようだ。アスファルトを叩きつける雨音だけが、部屋の中に響いている。孤独と焦燥感に押しつぶされそうになる夜もあった。自分の才能のなさを呪い、努力しても報われないのではないかという不安に駆られることも一度や二度ではなかった。


それでも、悠斗は机に向かい続けた。微かな希望を胸に、鉛筆を握りしめた。いつか、この努力が実を結び、灰色の日常に鮮やかな色が灯る日が来ると信じて。


ふと、悠斗は数日前に感じた奇妙な感覚を思い出した。アルバイト中、レジでお釣りを渡そうとした瞬間、一瞬だけ時間が止まったような気がしたのだ。周囲の音も、自分の思考も、全てが静止し、まるで世界から自分だけが切り離されたような、不思議な感覚。それはほんの一瞬の出来事で、すぐにいつもの時間に流れ戻ったため、気のせいだと片付けていた。


しかし、今日、自宅で課題に取り組んでいる最中にも、同じような感覚がほんの一瞬だけ訪れた。疲れているせいだろうか。それとも、何か他の原因があるのだろうか。


悠斗は首を振り、思考を再び参考書へと戻した。今は、目の前の課題を一つずつクリアしていくことが、彼にとって何よりも重要なことだった。奇妙な感覚については、また後で考えればいい。


明日もまた、朝早くから講義が始まる。短い睡眠時間を確保するため、悠斗は重い腰を上げた。シャワーを浴び、歯を磨き、布団に潜り込む。


目を閉じると、今日一日頑張った疲労感が全身を包み込んだ。夢の中でくらい、楽しい思いをしたいと願いながら、悠斗はゆっくりと意識を手放していった。彼の努力が報われる日は、果たして来るのだろうか。そして、彼自身もまだ気づいていない、秘められた力が目覚める日は――。

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