第6話 ミッシェルがちゃんと歌えるとモテるらしい
「山鹿ちゃんは洋楽は聴かんの?」
「あんまり、ウチの父ちゃんのクルマの中では時々流れてるのは、古いやつでカーペンターズ、ビートルズ、ホール&オーツ、デヴィッドボウイとか」
「ふーん、けっこう幅広いやん。それなら、これは聴いたことある?」
藝大美大進学予備校に特待生として通い始めて2週目の火曜日。
この予備校で4浪目となった川本先輩と夕方からカラオケ店に入るのも2週目だ。
前年度まで金欠を極めていた先輩が今年度から気持ちを新たに早速バイトを始めたらしく、今年から浪人生となった山鹿も早速父親から紹介してもらったバイトに通い始めたが、その店も火曜日が定休日、火曜日はカラオケに行く日になっていた。
ヘビースモーカーで一日のタバコ代が千円を超えることが珍しくない川本先輩が先週はカラオケ代を奢ってくれたのも今日の二回目に繋がっている。
週給として毎週月曜日にバイト料をくれるアメリカンな店って、どんなところだろう?~川本先輩から聞き出したい山鹿。
川本厚がリモコンで選曲した曲は「ミッシェル」《Michelle》。
ビートルズのアルバム「ラバー・ソウル」に収録。ポール・マッカートニーによってフランス語っぱく作られ、アルバム用に録音する時にジョン・レノンによって歌詞の一部がアレンジされてフランス語が使用されたスローなラブソング。
出だしから川本先輩が歌ってみた。
「…このスローバラードは悲しげですね」
「でも、これストレートな告白ナンバー、歌詞としては」
「ん? 部分的には英語に聴こえませんけど…」
「フランス語か?」
「これ、うまく歌えるとモテると思うよ」
山鹿はアタマから改めて歌詞のカタカナに沿って歌い始め、川本先輩はギターで合わせ始めた。
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