いや、魔王になっても死ぬんですが?!~異世界転移からの転生転生転生!?~

甘井雨玉

1章

プロローグ


 いつもの平凡で穏やかな日常が続くと思っていた。

 普通に学校に行って勉強し、帰ってweb小説や漫画を楽しむ。


 そんなよくあるありふれた日常。

 高校卒業までの期間限定だけど、少なくともそれまでの間は変わらない日常が送れるはずだった。


「あ? なんでこんな所にスライムがいやがるんだ。とっとと殺せ!」


 異世界に転移することさえなければ、僕がこうして魔物に転生することはなかったのに。


 ……どうやら僕が新たに転生した場所は冒険者達が狩りか何かの後、休憩していた所のようだ。

 ぼ、僕は悪いスライムじゃ――――グハッ!


 転生してまだ一分も経ってないのに殺されちゃったよ……。

 でも次の転生こそは生き抜いてみせるぞ!


 ただの高校生だったのに何度も死んでは転生を繰り返す。

 何故こんな目にあっているか、それは数日前までさかのぼる。


 ◆


 この僕、荒山循一はいつも通りひっそりと学校に登校し、一人で優雅に過ごす日々を送っている。……すみません、見栄張りました。

 ええ、ただのボッチです。


 友達が欲しいと思わなくない。

 でも僕はコミュ障気味で、話しかけられれば当たり障りなく話せる程度ではあるけど、自分から率先して仲良くなろうとコミュニケーション能力発揮するとかは無理。

 

「ガチャ爆死した……」

「爆死っていくら回したんだ?」

「15万」

「どこかで聞いた話だな!?」


 ソシャゲの話で盛り上がってるグループにはちょっと話しかけてみたいんだけど、自分の興味のあることを話題にしている人達だとしても、普段はろくに会話したこともない人に話しかけるのには勇気がいる。そして僕にそんなものはない。


 小学校からの幼馴染もクラスにいるけど最近はまともに話してないため疎遠だし……。

 と言うかその幼馴染が男だったらまだ話すくらいできたかもしれないけど、女子、いや美少女なんだよね~。


 望月茜って名前なんだけど、まさに正統派の美少女って感じで腰まで届く艶やかでよく手入れされてるであろう黒髪が印象的な柔らかい雰囲気を持つ子だ。

 クラスのカースト上位にいて誰にでも気さくで性格が良いため人気があるし。

 昔あった接点なんて今じゃ無いに等しいし、むしろ僕の方から避けてるくらいだから仕方ないよね。


「うわあ、数学の宿題やってない。お願い茜、助けて~」

「もう、自分でやらないと身に着かないんだからね」

「そう言いつつもノート渡してくれる貴女は女神か」


 茜達クラスメイトの声をBGMにいつも通り教室の隅で大人しくスマホで時間を潰す。

 いつもの日常。

 そんな毎日を送るはずの僕らは誰も予想できなかった。

 当たり前の日々がこんなあり得ない形で消えてしまうなんて思ってもみなかった。


 突然床に謎の魔法陣が輝き、言葉を発する間もなくその輝きが強烈な閃光となって僕らを一瞬で包み込み――

 気が付けば中世ヨーロッパのコスプレでもしているのかと言いたくなる人間たちに僕らは囲まれていた。


「「「勇者様方、どうか我々を救ってください!」」」


 大の大人が何を言っているんだろうと思うところだ。先程まで教室にいたにもかかわらずいきなり石造りの広い部屋にいなければ。

 クラスメイトがほとんどパニックになるも何とか全員が落ち着いたところで、全身鎧を着た人達に王様の元へと連れられ事情を聞かされた。


「我々が住むこの世界には魔王――」


 長々と夏休み前の校長ばりに話し始めたので要約すると、魔王を倒してほしくて異世界の住人に助けてもらうために勇者召喚の儀式をして現れたのが僕らだそうだ。

 よくある魔物あり魔法ありの異世界転移である。いや、あってたまるか。


 そう思うものの僕は内心ワクワクしていた。

 小説や漫画の中だけのはずがこうして現実で起きたのだから当然だろう。


「皆様方の中に勇者様がおられるはずです。一人ずつ確認しますので一列に並びこの者の前に立っていただけますでしょうか」


 現実離れした物凄く綺麗なシスターのような格好の美女がいるのだから尚更だ。

 こ、これはずるい。男ならフラフラと思わず寄ってしまうほどの色香を持つ彼女に僕ら男子は有無も言わずに素直に並んでしまった。

 女子の眼が若干冷たく感じるけど男の子ですので。( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ


 見た目が綺麗な人は声も綺麗なのだろうか。

 って、違う違う。シスターさんが真っ先に並んだクラスメイトに手をかざしてそう言うと何やら半透明の板がかざした手の前に現れた。

 どうやらステータス鑑定か何かなのだろうか? おそらくあの方法で勇者を探すのだろう。


 全員を鑑定した結果、クラスのカースト上位のイケメンが勇者だった。

 何人かは睨むように見ていたけど、僕としてはまあそうですよねとしか思わない。

 何故って?

 そりゃ勇者がブサイクよりイケメンの方が神様のテンションも上がるでしょ。

 人間の印象の十割は見た目で決まってしまうからね。


 僕? 僕はフツメンだと思ってるけど誰ともろくに会話しないからクラスのカーストは底辺の方だ。こればかりは仕方ない。


 向こうの世界にいた時はそれでも問題なかったけど、何の保障もない剣と魔法のあふれた異世界だとこれは結構な問題だ。

 だって勇者召喚した国の王様、勇者以外ほぼオマケとしか思ってないのだから。


 勇者君(名前なんだったっけ?)に対しては異世界の人達がやたらと話しかけ始めてるけど、それ以外の人間にはあまり興味を示していないよう。

 [勇者]のスキル以外だと[賢者]、[聖騎士]などのよくゲームで聞くようなスキルを持つ者とは話してるようだけど、僕のようなよく分らないスキル持ちに対しては塩対応だった。


 後から聞いた話だと、遥か昔に勇者召喚した際は5人だけで、[勇者]とかゲームの職業のようなスキルを持っている人間だけだったらしい。

 そう考えると、昔の話からそういったスキルを持っている人間に関心がいってしまうのも無理はないかな。


 いやまあ、話しかけられてもろくに話せないのだからむしろ助かったんだけどさ。


 ◆


 ……そう思っていた時期もありました。

 まさかここまであの王がクズだとは思わなかったよ。


 自分達で無理やり呼んだくせして勇者や力を持つ人間はある程度優遇して、勇者達との関係を良好にしようとしてるけど、僕みたいによく分からないスキルを持っている人間の扱いはかなり雑だったんだよね。

 最終的に勇者と親しくない扱いにくい人間は居心地が悪いから城を自発的に出た、という事にされて追い出されたし。


 まあ冷遇されてる場所にわざわざ居続けたいとは思わないからいいんだけど。

 でも追い出すにしても、せめて1人で生き抜けれるようお金を稼げるように職を案内してほしかったな……。


 僕には戦う力がないせいで1人では到底生きてはいけず、クラスメイトの荷物持ちをして何とかその日を食いつなぐしかなかった。


 他のみんなみたいに力があればこんな事をせずに1人で生きていけたのに。

 はぁ。何度ステータスを見てもこれはないよ……。


「ステータス」


 ―――――――――――――――

 レベル:1

 種族 :人間

 筋力 :E

 耐久 :E

 精神 :A

 魔力 :D

 敏捷 :E

 幸運 :E

 スキル:[輪廻]

 称号 :[異世界より来たりし者]

 ―――――――――――――――

 

 う~ん、中々に酷い。

 荷物持ちと雑用しかしてないからレベルが上がらないのは仕方がないにしても、ロクなステータスじゃないね。

 やっぱり魔物を倒さないといけないんだけど、向こうの世界の身体能力でも元にしてるのか身体能力の項目は全部最低のE。

 もうちょっと身体を鍛えるべきだったかな……。


 ちなみに評価の内訳はこんな感じ。

 S:規格外

 A:すごい

 B:ちょっとすごい

 C:普通

 D:ちょっと悪い

 E:もうダメダメ


 いや、もうダメダメってなんだよ。というか評価がちょっとアバウト過ぎない?


 こんな評価の内訳を認識した後、自身のステータスを見るとより酷いと感じるだろう。

 なにせ精神以外は人並み以下。

 その精神も魔法とか操ったりするのに重要な項目ではあるけど肝心の魔力が人並み以下。

 どうしろと?


 他のみんなはEなんて評価はなくて、せいぜい悪くてもDなだけに不公平すぎるよ。

 こんなステータスのせいで、体のいい荷物持ち、いやもはや奴隷だ。

 

 魔物のいるこの世界ではそれを倒す事で糧を得る事ができる組織として冒険者ギルドがあり、そこに所属して金銭を得ているわけだけど、荷物持ちの僕に分け前はなくせいぜいご飯を貰える程度。


 それもろくな食事は貰えておらず。それでもこき使われる。

 ……まじで奴隷だなぁ。


 でもこんなステータスじゃ戦えないし、パーティーから逃げても満足に働けないから飢えて死んじゃうだろうし。

 唯一のスキル[輪廻]もどうやら死なないと効果を発揮しないとか。

 ああ、もう詰んでる。あまりにも酷すぎて[輪廻]スキルにワンチャン賭けて死にたいと頭によぎるレベルだ。

 

 でも死んではダメだ。


 どんなに苦しくても生き抜いた母さんとの約束、それがある以上僕はどんなに苦しくても死なない。何をしてでも生き抜くとそう決めてるんだ。



 そう思っていたのに、現実は非情だった。


「そいつを囮にしてとっとと逃げるぞ!!」


 いつも通り魔物を討伐するべくパーティーで行動していたら、森の中で運悪く蟻の魔物の群れに遭遇してしまった。

 そいつらは僕らを罠にかけ、いつの間にか囲まれるという事態に陥ってしまったんだ。


 その状況化でリーダーが即座に下した決断が僕を囮にすることだった。

 リーダーの一声で全員が一気に結託し、蟻の魔物の群れに向かって蹴り飛ばされた僕は蟻達に群がられてあっと言う間に手足を食われていった。


 あまりにもあっけない終わり。


 ふざけるな! こんな終わりあんまりじゃないか!

 何かないの?! 死なないための方法は!?


 どれだけ憤っても、どれだけ願ってもこの状況を打開する術など僕にはなく、喉を食いちぎられてあっさりと死んだ。


 ◆


 そして目が覚めたら、身体が縮んでいた。

 というか、緑一色だった。

 どうやら[輪廻]が発動したっぽいんだけど僕はいったい何になったんだ?


「ステータス」


 ―――――――――――――――

 レベル:1

 種族 :ゴブリン

 筋力 :E

 耐久 :E

 精神 :A

 魔力 :E

 敏捷 :E

 幸運 :Z

 スキル:[輪廻][悪食]

 称号 :[異世界より来たりし者][死神に愛されし者]

 ―――――――――――――――


 どうやら僕はゴブリンになってしまったらしい。

 僕の[輪廻]スキルは間違いなく発動したようだが、ちょっとこのステータスはおかしくないですかね?



--―--------------------

・あとがき


甘井の小説に興味がありましたら下記作品もよろしくお願いします。

・【ああ、課金してぇーー!!!】

https://kakuyomu.jp/works/16816927861122954000

現代ダンジョンもので、主人公が不憫ながらも頑張ってレベルを上げる話です。

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