第2話 うちの〇〇は魔王らしい

昔々、魔王と勇者は長い歴史の中で殺し合いを続けて来た。

ただ、それは正しい歴史ではない。

これは人間側の主観に過ぎない。

長い歴史の中で魔王側が負けたことは一度たりとも存在しない。

一方的な戦いを殺し合いとは言わない。

それでも人間は滅ばないし、勇者は変わらず魔王を狙ってやってくる。


「良くぞここまでたどり着いたな、勇者よ。いざ尋常に、存分に殺し合おう」


「なにが尋常にだ、クソ喰らえ!! 幼馴染のドーレも、優しかった僧侶のミーファも、いつも元気で笑顔だった戦士のソラも、陰からこっそりみんなを助けてくれていた狩人のシドもみんな死んじまった。それも全部お前のせいだろ魔王!!」


勇者は力任せに自分の頭を掻きむしり、魔王に恨み言を吐き捨てる。

目は充血し、自傷によって負った傷から血が滴り落ちる。

しかし、狂気の中において尚、勇者は剣先を迷いなく魔王の方へ向けている。


「知らんな。君の故郷が滅んだのは『モンスターパレード』に備えなかった領主が原因だ。ドーレが死んだのは君を妬んだ人間の仕業だ。ミーファが死んだのは君を魔物の攻撃から庇ったせいだ。ソラが死んだのは貧困に喘いだ人間の村人達の騙し討ちだ。シドが死んだのは単独行動が命取りになるダンジョンで麻痺毒を受けたことに気付かなかったお前達の落ち度だ。今回の『勇者パレード』はとても人気だったのだがな。こんな結果に終わって我々も誠に遺憾だ」


魔王により、勇者の勘違いが淡々と指摘

憎しみで曇った瞳に理性の色が映る。


「そ…れは……。いや待て、なぜお前がそんなことまで知っている!」


人はいくら堅い決意を持とうとも、それを上回る感情を引き出し、過剰な情報を与えてやれば、その決意は揺らぐものだ。


「全部『』からだ。もちろん記録も保管してある。我々は戦争をしているのだよ。相手の情報を集めるのは当然のことだろう?それに人間が我々魔族を一方的に敵視し、戦争をふっかけてきているのだ。我々魔王軍の正当性を国民に示すためにも映像記録は重要な証拠になる」


理路整然とした言葉が魔王の口から並べられる。

あまりにも魔族に都合の良い言い分。

勇者の心は煮え繰り返る。

その言葉は人間への侮辱と否定でしかない。


「ふざけるなァ!!俺の故郷を滅ぼした魔物の群れも、仲間達を殺した凶悪な魔物達も、お前達魔王軍の手先じゃないか!何百年もの間、俺達はお前達の脅威に脅かされてきた。それをなかったとは…言わせない。死んでも言わせるわけないだろ!!」


再び勇者の瞳に狂気と憎悪が宿る。

しかし、魔王は軽くため息を吐き、ウンザリした表情を隠しもしない。


「お前達勇者はいつの時代も変わらないな。同じ勘違いをし、同じ暴言を我々に吐く。魔王軍に『魔物』は存在しない。『対魔物特選隊』ならあるが、それはあの畜生どもを駆除するための部隊だ。魔王軍も魔族の国も、魔族のものであって『魔物』とは全く関係ないものだ。何度その誤解が解かれ停戦が実現しても貴様らの王が3度も変わればすっかり忘れて勇者を送り込んでくる」


魔王の言葉に哀愁が混じる。

そして、憐れむ目線を今代の勇者へ向ける。


「我々魔族はお前達人間に手を出していないし、魔物共しか倒していないお前達の『勇者パレード侵略行為』は魔族への被害は0だ。理解したか?したならさっさと帰って飯食って寝ろ。俺は忙しいんだ。勇者ごっこは他所でやってくれ」


しっしと片手を軽く振り払う魔王の仕草に勇者は覚悟を決める。

『自分の大切な人達はもういない』

彼にとっての真実はその一点だけだった。


「ふざけるな。魔王の言葉を信じる勇者がどこにいるんだ。死ねぇ!!」


勇者の剣が勇者の狂気に呼応し、暴力的な輝きを放ち始める。


カッン


しかし、その輝きはフィラメントの切れた蛍光灯のように消える。

勇者は何が起きたか分からず、呆然と剣を見つめる。


そんな勇者を他所に、魔王は部下に『伝達魔法』を繋げる。


『今回の録画はここで停止しろ。勇者がこんな状態ではまともな戦いにすらならん。好きにエフェクトと過去の戦闘シーンを加えて編集しておけ』


「魔王、何をした。言え!!」


光を失った勇者の剣を振りかぶり、魔王へ切り掛かる勇者。

その力任せの一振りは魔王に届かず、その刃はあっけなく砕けた。


「ハァ?」


「それは『対魔の剣』。300年前に人間国へ停戦協定を結ぶため、当時の国王へ提供したものだ。私が最も得意な『魔物を殺す魔法』を込めた力作だったな。もちろん安全面にも考慮し、魔物以外に振るうと壊れるように作った。こんな事で失われるのは、製作者として悲しい限りだ」


勇者の存在意義を示す拠り所はあっけなく砕かれた。

彼のこれまでの旅は全て無駄だった。

彼の人生はなんの意味もなかった。


「じゃあな、元勇者くん。君のこれまでの冒険自体は好きだったよ。それ故に君達の最後は本当に残念だ」

「あああ、アァアアああアアあ!!」


魔王の手がゆっくりと勇者へ伸びる。

元勇者は砕けた剣の残骸を振り回し、最後の抵抗をする。


しかし、誰が見ようとも既に勝敗は明白であった。






願望② 世界滅亡の儀式を阻止する



「父、儀式やめる」


「勇者マギよ。よくぞここまでやってきた。儀式を止めたければ、魔王であるこの私を倒す事だな」


父親にとって、娘が職場見学に来てくれるのはとても嬉しい出来事だった。

妻に瓜二つの瞳がこちらを見つめている。

ゆくゆくはこの家業も彼女が継ぐことになるだろう。

娘は贔屓目に見ても大天才だ。

あの妻と天才である私の娘なのだ。

それは当然とも言える。


「わかった」


少女が一歩踏み出す。


「ぐーあーあーやられたー」


……。


すると魔王は大袈裟な動作で椅子から転がり落ち、足元にうずくまった。


「父、まだ何も。やってない」


「勇者よ。勇ましき者よ。まさかこの最強の魔王である私を倒すとはな。最後に教えてやろう。私はお前の父だ」

「知ってる」


少女はため息を吐く。

しかし、その様子とは裏腹に、こういうやりとりも嫌いではないことを父は知っている。


「そして、魔王を倒したものは次の魔王になるのだ」

「分かった」


……。

父の芝居がかった動きが止まる。

驚いた表情で信じられない回答を返した娘を見つめる。


「えっ、いいの?」

「いい。その方が早い」

「何十回お願いしてもダメだったのに?」

「今はそういう気分なだけ」


「ヤッホイ、これで『娘より弱いのにいつまで魔王の椅子に座っているんですか』っていう部下からの無言の圧力から解放されるぞ。愛しのマイレディ大好き。じゃあ、引き継ぎ作業は宰相と将軍のおじさん達に聞いてね。俺は早速有給使ってダンジョン行ってくるわ」


「ん。バイバイ」





「子供の成長は早いものだ」





魔王城の裏手にはとあるダンジョンが存在する

このダンジョンにはモンスターも財宝もない

攻略する価値はない

その最深部には

ただ小さな石と花束が置かれている

しかし、誰かの目に触れることは決してない

ここは魔王を名乗る男のダンジョン


彼が守り抜けなかったものは何一つ存在しない。

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