シャルロックサーカス
もみじあおい
不思議な出逢い
「お母さん!今度の土曜サーカス見に行きたい」
私はチラシを見せながらそう言った。
お母さんは
「あらまあ。確かにいい機会かもねぇ…奈々はそういえば行ったことないんだったかしら」
と言ってくれた。
「…でもどうして突然?」
お母さんは不思議そうに尋ねた。
「行ったことないし、それに!なんだかワクワクする所なイメージなんだよね」私は胸を躍らせながらそう言った。
「後、ここ凄く評判がいいの!一部の人しか入れなくて制限があるらしいんだけど不思議な感じがして楽しみなの」
一部の人しか入れない特別なサーカス、私はそんな言葉に惹かれて気になった。
「確かに、なんだか不思議ね。でも評判がいいならきっと安心でしょう」
そうお母さんが返してくれたのでチケットを取り、私たちは行くことになった。
そして当日、順番待ちをしていた。一部の人しか入れず、それほど多くない人数だったので順番はすぐに回ってきた。
「いらっしゃい。」
ロングで黒髪のお姉さんがそう声をかけてきた。
「チケットあるかしら」
お母さんはチケットを受付のお姉さんに渡した。
「さあ、こちらを進んでどうぞ」
お姉さんに言われるがままに私達はテントの中に入った。
少し待機時間を待って、サーカスの明かりがついた。
「Ladies and Gentlemen ようこそおいで下さいました」
「私たちのショーをご覧ください…フフフ」
少し不気味な笑みをこぼしながらさっきのお姉さんは言った。
「さあ!まずはライオンを見てください」
パッと照明がついてライオンが姿を現した。ライオンは檻に入っていなく、歯がしっかりと見えた。
その様子にお母さんは驚き悲鳴をあげた。
「いきなりライオン!?…普通後半にあるんじゃないの?…それに檻なしって…」
あまりに安全の配慮にかけた構成に私も少し怖くなった。だけど同時に少しだけワクワクもあった。
「ライオンに攻撃したい人はいますか?」
お姉さんはそう言ってお客さんに呼びかけたが手を上げるものはいなかった。
そりゃあそうだあまりにもみんな、怖かったのだろう。
「じゃあ、貴方.」
突然私はお姉さんに指をさされた。
私はやや無理矢理お姉さんに腕を引っ張られ
ライオンの目の前に立たされる。
「好きなだけ攻撃しなさい。殴ったって蹴ったって構わないわ」
さっきの優しかったお姉さんとは裏腹に今のお姉さんは氷の様に冷たかった。
「で、できません」
私は震えながら答えた。
「…怒らないわ。この子優しいもの」
お姉さんは語りかける様に言った。
「…で…でも」
私がそう答えるとお姉さんは
「いいから」
と強く言った。
私は仕方なくライオンの頭を撫でた。流石に攻撃するのは怖かったのだ。
「面白くないわ」
お姉さんは小さな声でボソリと言った。
そしてお姉さんはフフフと不気味な笑みを浮かべライオンを見つめ始めた。
するとライオンの真っ黒な瞳はたちまち赤に変わり、私の手に噛みついてきた。
「いっ…」
私は後退りして流血した手を片方の手で抑えた。
会場は悲鳴をあげ、逃げ惑う人々で溢れかえっていた。
しかしおさげの女の子がそれを引き止めるかのように出口の扉の前に立った。すぐそばには虎もついており人々は困っていた。
私はというとその場に立ち尽くし、赤く染まったライオンの瞳を涙まじりに見つめていた。
「お姉ちゃんの邪魔しないでね」
おさげの女の子はそう言って人達に煙幕をかけた。
数分後人々は眠らされ、その場に倒れていた。
「やめて…」
私は涙を浮かべてじりじりと近づいてくるライオンから一歩一歩後退りしていく。すぐそばにいるお姉さんは不気味に笑ってその様子を楽しげに見ていた。
「誰か…助けてっ」
私がそう叫ぶとどこからともなく女の子が現れた。
「下がって!」
彼女はそう告げた。
私は走ってできる限りその場を離れた。少女は綺麗な声で歌を歌った。ライオンはその美声に魅了されたのか大人しくなり、目の色は黒に戻った。
歌だけで大人しくさせるなんてことは普通ではないことくらいわかった。
「貴方は何者なの!?」
私は問いたかったが彼女はお姉さんの方を鋭く見つめているのに必死なようだった。
「いいから逃げて!」
彼女は一瞬の隙を見計らってこちらを覗き、そう叫んだ。
「わかった…」
私は逃げようとした、でも駄目だった。おさげの女の子がやってきて、私の行く手を阻んだ。
「逃げようたって遅いわよ。ただの人間が、逃げれるとでも思っているの?」
私を嘲笑うようにお姉さんは言った。
「お遊びはおしまいだよ!」
銀髪の少女はそう言って不気味に笑った。
「…どうすれば、いいの?」
私は立ち止まって、何も出来ずに居た。
そんな時
「これを使って!」
そう言って渡してきたのは月の形をした物。
「…これは?」
「これはシャルロック、超能力を付与する物だよ。これを髪に付けて」
超能力を付与とか、訳わかんないけど…でも。
「身につければ良いんだよね?」
こうでもしないとこの状況から打開できないなら、使うしかない。
「…何をする気?」
おさげの女の子は私を見るなりそう言った。
「どうにかしようたってあたし達に関係ない。ただ倒すだけ」
「ただの人間が私達に勝てるわけないのよ!」
敵達はそう言ってきた。だけど、不可能なんてきっとないって信じてる!何かすれば、きっとこの状況を変えられる。だから
「ありがとう、名前もわからない女の子」
少女の言葉を信じて、この状況を変えられる術を願った。すると
シャルロックは瞬く間に光り輝き紅色に変化した。
「…これは一体?」
なんだか不思議と力が湧いてくる気がする。
「シャルロックでどうしようっていうのよ!きっと大したことない能力に決まっているわ」
そう言ってお姉さんは先程まで戦っていた少女を無視して私に突進してきた。私は回避するため横に軽くジャンプした。すると
私は空高く宙へ舞った。
「…空を飛んでる!?ジャンプしただけなのに?」
空を飛ぶ能力、これが私の力?
「…そんなの聞いてないわ!チートよ」
いちゃもんをつけるお姉さんだったが私はさっきまでの出来事を思い出して
「…お姉さん!貴方にさっき散々傷つけられたんだから!」
「…!!そっちがその気ならこっちだって」
お姉さんは私を睨みつけた。
「……えい!」
私はお姉さんのお腹に思い切り蹴りを入れた。
お姉さんは何か力を発動しようとしていた様だったが発動する前に地面に倒れた。
「ぅ…こんな程度で負けないわ…!覚えておきなさい!」お姉さんは捨て台詞を吐いて逃亡した。
「うー!待ってよお姉様!」
妹も逃げる姉を追いかけその場を立ち去った。
*
「ごめん。さっき言い忘れたことがあるんだ」
さっきシャルロックを渡してくれた少女はそう言ってきた。
「とっても重要なことなんだけど…悪意や負の感情を持った状態でこのアイテムを身につけてはいけない。」
「え?その状態で身につけちゃったらどうなるの?」
私は彼女に尋ねた。
「シャルロックが暴走して最悪その人の精神に悪影響を及ぼす」そして、と彼女は続きを言って
「…そうなると、シャルロックが黒く変化するから気を付けて」
「先に言ってよ!」
私は不貞腐れた様子で言った。
「緊急事態だったんだからしょうがないでしょ!」
ごめん、と彼女は付け足して
「負の感情を持っている時は外せばいい。それさえ覚えておけば問題はないから!」
なんだか、とんでもないものを渡された気分だけど…
強い能力が付与される分のデメリットってことなのかな。
「…はぁ」
私は少しため息をついてから
「あれ!そういえば私のお母さんは?」
二人が帰った後、私はあることに気がついた。
「…きっとあいつらに攫われたんだ」
「あいつらってさっきの?」
そう尋ねると彼女はこくりと頷いて言った。
「…あいつらは私のシャルロックを奪いに来てるんだ」
「あなたのシャルロック?」
私は不思議そうに尋ねた。
「そう、私の名前はテルル。本当は偽名だけど彼女達に昔会ったことを悟られないために偽ってるんだ…とそんなことは置いておいて」
昔、あの人達に会ったことがあるんだ。何気なく私は聞いて
「それで、シャルロックは分かるかもしれないけど元は私の物だったんだ。」
「私の目的はただ一つ。あいつらを止めるためだよ」
「あの人達の目的って何なの?シャルロックを奪って何がしたいの…!」
私は尋ねたが、テルルと名乗る少女は訝しんだ様子で
「ごめんね、わからない」
と答えた。
「…そっかぁ」
私が残念そうに言うと、テルルという少女は何かを察知したように
「ねえ君、えっと名前聞いてなかったけど。なんか変な感じしない?」
「えっと私は百瀬奈々だよ。変な感じって…確かに」
さっきの煙幕の影響か分からないけれど視界が悪いし、なんだか眠くなってくるような…
「…きっと睡眠薬だ!奈々早くここから逃げよう」
テルルちゃんはそう言ってくるけれど私にはもう眠気が迫っていた。
「逃げようたって…ねむい…よ…」
「最悪だ…わたし…も…」
私達はそこで意識が途絶えた。
*
「………あれ?」
私は目を覚まして、辺りを見渡す。景色はまさに遊園地そのものだ。ジェットコースターにお化け屋敷、観覧車も遠くに見えた。
「ここどこ?私は確か…」
そう言って記憶を思い出そうとする。だけど、あのサーカスでテルルちゃんという少女と会話した後
それからの記憶が一切思い出せない。ここは夢だろうかと私は思った。
「……君!」
テルルちゃんの叫んでいるような、必死な声がした。
私は背後を振り返ってテルルちゃんを見る。
「テルルちゃんも、来てたの?」
私はテルルちゃんを見て、そっと近づきそう言った。
「ここがどこだが、私もわからない。ただ、“あいつら“が関係してそうだなぁって思う」
テルルちゃんはそう推測してみせた。
「…あいつらってもしかして」
私は少し躊躇いつつも言った。
「そう、昨日のあいつらだよ。サーカスを荒らした悪い集団さ」
「集団?…二人だけじゃなかった?」
私は少し疑問を持った。
「裏にきっと沢山いるんだ。二人だけであんな恐ろしいのを経営する訳ないよね?」テルルちゃんは私にそう尋ねた。私は確かにと頷いた。
「とにかく出口を探そう。」
テルルちゃんは冷静な判断をして出口を探し始めた。
私はテルルちゃんの後を追った。
5分くらいすると門に辿り着いたが、門は硬く施錠されていた。
「残念だけど、ここは開きそうにないね」
テルルちゃんの言葉に私は肩を落とし少ししょんぼりした。
すると
『やっほー!昨日のお二人さん?』
とスピーカーから謎の声がするのだった。
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