飼い猫みーちゃんとの約束

リラックス夢土

第1話 飼い猫みーちゃんとの約束

 私が小学生の時、一匹の子猫を拾った。

 親猫とはぐれたのか小雨の中で濡れていたその子猫は私が抱き上げるとか細い声で「ニャー」と鳴いた。


 自宅に連れて帰り親に子猫を飼いたいと言うと「自分で世話をするならいいわよ」と飼うことを許してくれた。

 私は子猫を「みーちゃん」と名付ける。


 それからの私は何をするにもみーちゃんと一緒だった。

 みーちゃんのご飯も自分で用意したし寝る時もみーちゃんは私と同じベッドで眠る。


 だけどある日学校の同級生が私に言った。

 「猫は寿命が短いから自分より先に死んじゃうんだよ」って。


 その言葉に私はショックを受ける。

 みーちゃんが私より先に死んじゃうなんて。


 でもその同級生はこうも言っていた。

 「それに長生きした猫は化け猫になるし」と。


 その夜、ベッドで私と眠るみーちゃんに私は声をかける。


「みーちゃんとずっと一緒にいたいからみーちゃんは長生きして化け猫になって一生私のそばにいてね」


「ニャー」


 みーちゃんは瞳を細めて私に答えてくれた。

 これはみーちゃんと私だけの秘密の約束。


 化け猫は悪いことをするという話も聞いたけどみーちゃんが私に悪いことなどするわけがない。

 だってみーちゃんと私は誰より仲良しなんだもん。


 それから月日は流れ私は高校を卒業して就職することになった。

 就職場所は実家から遠く私は一人暮らしをすることにしたが引っ越し先のアパートはペット禁止だった。


 泣く泣くみーちゃんを実家に残し私はアパートに住み社会人として働き始める。

 そして仕事先で出会った男性に恋をした。


 その男性も私に好意を持っていてその男性は私のアパートで同棲を始めたの。

 最初は楽しくて毎日が幸せだった。


 でもある時その男性がリストラにあって無職になってしまった。

 もちろん次の仕事を探し始めたけど仕事は見つからずその男性は昼間からお酒を飲み私にも暴力をふるってくるようになる。


 そんな毎日が続く中、追い打ちをかけるように実家から連絡がきた。

 「あなたのみーちゃんが亡くなったわよ。猫にしては長生きしたわね」と。


 みーちゃんが死んだ。


 その連絡が来た時、私は職場からの帰り道だったがその場に座り込んでしまった。

 涙が溢れて止まらない私がその場で泣きじゃくっていると小雨まで降ってきた。


 それでも私はそこから動く気力が出ない。

 早く帰って彼のために食事を作らなければまた暴力をふるわれるのに。


 そんな私の耳に「ニャー」という声が聞こえる。

 驚いてその声のした方に目を向けるとそこには小雨に濡れた子猫がいた。

 しかもその毛並みはみーちゃんと瓜二つ。


「みーちゃん!」


 私はその子猫を抱き締めた。

 この子はきっとみーちゃんの生まれ変わり。

 この子を育てよう。


 今のアパートはペット禁止だが社会人になってから貯めた貯金も僅かだがある。

 それを利用してペット可のアパートに住めばいい。

 でもその前にあの男とはきちんと別れなければ。


 固い決意を胸に私は自分のアパートに帰る。


「遅いぞ! 早く飯を作れ!」


 酒を飲んだ赤ら顔で彼が怒鳴った。

 でも私は今日は言いなりになる気はなかった。

 子猫をタオルで拭いた後にその男に向き直る。


「もうあなたとは別れます。ここを出て行ってください」


「なんだと! 生意気なこと言ってるんじゃねえぞ!」


 激怒した男は私を殴ろうと襲いかかってくる。

 私は痛みの衝撃に耐えるべく目を瞑り歯を食いしばる。


 その瞬間、ドーンッという落雷の音がして電気が消えて停電になった。

 もう夜になっていたから電気が消えれば部屋は真っ暗だ。


「なんだ!? ひい! ぎゃあああぁーっ!!」


 暗い部屋の中に男の悲鳴が聞こえる。

 それと同時に「バキ、ボキ」と何かが折れるような音がする。


「うぎゃあああぁーっ!!」


 また男の悲鳴が聞こえたがその後男の声が聞こえなくなり「ピチャ、ピチャ」という音が部屋に響く。

 私は恐る恐る目を開いた。


「……っ!」


 部屋は暗かったが雷光の光が部屋に入るので自分の目の前の光景が私にも確認できた。


 血だらけになり手足が不自然に曲がった彼の身体の上に乗る二つの尻尾を持った巨大な化け猫。

 その化け猫は彼の身体から流れる血を舐めている。


 ピチャ……ピチャ……


「……みーちゃん……?」


 身体が大きくなっても尻尾が二つになっても私が見間違うはずがない。

 その巨大な化け猫はみーちゃんだ。


「ニャー」


 化け猫は私を見つめて優しく鳴く。

 その声も瞳もみーちゃんと同じだ。


 ああ、みーちゃんは私との約束通りに化け猫になって私の元に来てくれた。

 さっき拾った子猫はみーちゃんそのものだったんだわ。


 そしてみーちゃんは私を助けてくれた。

 これからはみーちゃんと一生一緒にいられる。


「みーちゃん!」


「ニャー」


 私はみーちゃんに抱き付いた。


 もうみーちゃんと私が離れることはない。

 あの時の約束通り生涯一緒だ。

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