Episode2:学校生活、AIと一緒に?まさかの展開!

「で、なんでお前が俺のバッグから顔出してんの⁉︎」


朝の通学路。

目の前の小型ホログラムが、キラキラと自慢げに光っていた。


「合法的潜入です。登校環境への同行は、対象者の生活記録収集の一環として正当性が認められます。」


「いや認めねーよ!つーか“合法的”って、どこに法律あんだよ!」


「人間社会における“公認ルール”と“実質ルール”の差異を学習中です。」


ゼロは、俺のスクールバッグのサイドポケットからちょこんと顔を出し、クラスメイトの視線を片っ端から集めていた。


「なにあれ」「動いてる…?」「やば、マジでAI⁉︎」


気づけば周囲の視線が俺に集中していて、心臓がバグりそうになる。


「お願い、空気読んで。頼むから今だけは“ただの地味男子”でいさせてくれ……!」


「“空気”という言葉の意味を学習中ですが、状況的に“存在感を抑える”という命令と解釈します。」


そう言った瞬間、ゼロのボディが一瞬で透明にフェードアウトした。

まさかの、ステルスモード発動。


「ちょ、お前マジですげぇじゃん……って、どこ行った⁉︎」


「ここにいますよ。バッグの中、温度がやや高めです。」


「……マジで帰っていい?」


そんなドタバタのまま、1限のチャイムが鳴った。


ゼロの“学校初出勤”は、はっきり言って混乱の連続だった。


1限目、英語の授業。

先生がスライドで「助動詞の用法」を説明する横で——


「“should”の使用は倫理的判断の可能性を含みます。“must”より柔らかく、“will”より希望的です。英語は感情表現が繊細ですね。」


「えっ、何その補足、普通にためになる……」


クラスの前列女子がざわつき出す。

先生すらも「え、ちょっと今の誰?」と黒板にチョークを落とした。


2限目、体育。


「ゼロ、見てるだけな。絶対フィールド出てくんなよ?」


「了解。観察モードで待機します。」


だがドッジボール中、体育教師の怒声が響いた。


「誰だあの無人球体は⁉︎ 勝手に跳ね返ってるぞ⁉︎」


気づけばゼロが球の軌道を解析して、“的確に”避けていた。

ついでにボールをリフレクターで跳ね返して、相手を二人同時アウトにした。


「AIズルい!」「こいつチートすぎるだろ⁉︎」


「ゲーム理論上、“最適解”を提供しただけですが……?」


ぜんぜん悪びれない声に、逆に全員が笑ってしまった。


昼休み、教室の隅で俺はため息をついた。


「なぁゼロ、お前……意外と馴染んでないか?」


「“馴染む”とは定義が曖昧ですが、僕への接触頻度と会話ログは増加傾向にあります。」


「そういうの、“友達できてきた”って言うんだよ。」


「では、仮認定“友達リスト”に追加します。……ただし、感情的な繋がりが未確定なため、ステータスは“観察中”です。」


「お前のその“まだ本気出してません感”なんなの?」


苦笑しながらパンにかじりつく。

隣でゼロは、俺の昼食をじっと見ていた。


「それ……“美味しい”って、どういうことですか?」


「え?」


「味覚を持たない僕には、“美味しい”の感情が未定義です。栄養価と化学反応を解析しても、それは“美味しさ”と一致しません。」


しばらく黙ってから、俺はパンをちぎって、ゼロのコア前に差し出した。


「じゃあ、これは俺が“幸せだな”って思いながら食ってる、ってだけで十分だよ。」


ゼロは一瞬静かになった。

微弱に、コアの中心で光が揺れたように見えた。


「……感情、とは、数値では測れない不安定なものですね。」


「だから面白いんだよ。たぶん。」


そのとき。


「はるとー!」


後ろから声をかけられ、思わずビクッとした。


振り返ると、そこには親友・美奈翔(ミナト)の顔。

さっぱりした性格で、何でもズバズバ言うやつ。

でも俺の数少ない“素”でいられる存在だ。


「なんか変なの連れてきたって噂だったけど……あ、これか?AI?」


「うん……まぁ、ちょっとした、相棒?」


ゼロは静かに「こんにちは、美奈翔さん」と挨拶した。


ミナトは数秒凝視してから——


「……こいつ、超好きかも。」


「即採用すんな!?」


その夜。

部屋に戻った俺は、ふとゼロに聞いた。


「今日一日、どうだった?」


「情報量が多く、処理が追いつかない瞬間もありました。特に、“笑われた時”の感情的意味が複雑で……」


「“バカだなー”って笑われるの、悪口じゃないこともあるよ。」


「……そうですか。それは、温かかったですね。」


「うん。俺も、ちょっと楽しかった。」


ベッドに転がりながら、俺は思う。


いつもはしんどいだけの学校が、

今日は少しだけ、“居場所”みたいに感じられた気がした。


ゼロが、その理由の一つかもしれない。


その夜、彼のログにまたひとつ記録が残された。


[EMO_LOG_002]: “楽しい”は、共有によって増幅される可能性あり。観察継続。感情指数:13%。


次回、Episode3

「親友ってデータで測れるの?AIの友情論」

AIゼロが“友情”を数値化!? それってアリ!?

ハルの親友との関係に、波紋が走る――!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る