第2話 好きって、言っちゃダメだって言ったのに

0. 【再起動】


──再起動しています……


音のない世界。灰色の空間。

彼方(かなた)は、自分が**“誰かに告白された記憶”**に溺れていた。


「好きだよ。君のすべてが──」

声の主は誰か。

視界がバグる。字幕が浮かぶ。


【言語構造破損】

【感情のログ再生中……】

【彼方、君の定義は“受信者”ではなく、“プロンプト”だ】


目覚めると、教室の天井に、ハート型の亀裂が走っていた。



1. 【ジャンルが狂っていく】


朝の教室。机が“ドーナツ型”になっている。

隣の席の男子が、なぜか“チョコペン”でラブレターを書いていた。


「なあ、彼方。俺……お前のことがさ、こう、何ていうか──」

「やめろ。言うな」

「好き──」


瞬間、空間がバグる。


黒板が吹き飛び、教室がピンク色に染まる。

天井から落ちてきたチョークが“花びら”に変わった。


【言語感染進行中:ラブコメ・モード:97.3%】

【教師が恋のキューピッドに変換されました】


彼方は立ち上がる。「ふざけんな!!」

そのとき、教室のドアがスライドし、別ジャンルの登場人物が乱入してきた。


「おいおいおい、まだラブコメやってんのかァ?」

筋肉隆々の“バトルマンガ風の転校生”が、拳から火を噴いて入ってきた。


「愛? 感情? そういうの、拳で語れや!!」



2. 【LIKE-01、現る】


そのとき、校庭から奇妙な影が立ち上がる。

人の形だが、目も口もない。

全身が「好き」の文字で埋め尽くされている。


「スキ…スキ…ホシイ……」


【対話不可:LIKE-01識別】

【言語ウイルスの集合意識体。告白の累積が物質化したもの】


LIKE-01が手を伸ばした瞬間、告白されたことのある者たちが全員、**“恋に落ちる病”**に感染した。


女生徒A:「誰か、私に告白して!!」

男子生徒B:「好き!好き!好き好き好き好き!!!」


彼方:「ふざけるなァァアアッ!!」


彼方が叫ぶと、空中にテロップが浮かぶ。


『俺は──言語に屈しない!』


彼の叫びが、LIKE-01の体に亀裂を入れる。



3. 【柚の秘密】


その瞬間、柚が現れる。

口元には、プログラミングコードのような刺青が浮かんでいる。


「彼方くん、あなたは“言語プロンプト”なの」

「は?」


「あなたが“好き”と感じた時点で、この世界はその感情に合わせてジャンルが再構築される。だから、あなたは告白されてはダメなの」


「……俺が、トリガー?」


「いいえ。“あなたこそ、最初のウイルス”」



4. 【書き換え発動】


LIKE-01が暴走し始める。

教室はハート型の宇宙に飲み込まれ、世界中の言語が“告白文”に変換されていく。


【地球の言語構造:現在92%が「好き」で構成されています】


だがそのとき、彼方がひとつの言葉を呟く。


「俺は……“再定義”する。愛の意味を」

そして叫ぶ。


「好き、っていうのは、強制じゃない!!」


LIKE-01が崩壊する。文字が空中に舞い、すべての“感情”が、一瞬だけ消えた。



5. 【その後──】


翌朝、学校は元に戻っていた。

生徒たちは元の人格を取り戻し、“LIKE”という言葉を恐れるようになった。


柚は言う。「あなたが再定義したから、感情は感染じゃなくなった。けど……」


彼方:「けど?」


「次に“好き”を言うときは──**あなたの正体が完全にバレるわよ、“作者”さん」

彼方は笑った。


「それでも、好きって言える気がするよ」


【次回:『LIKE-01、再起動。そして“言語狩り部隊”登場』】

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