第22話 ローリン=世界を揺らす者

 蓮の声が、広場に響いていた。


 誰もが動けず、ただその“音”に耳を傾けていた。

 記録装置が最後に再生した一文――


 『ローリンガール、じゃない。

  ――リオ、って名前だったんだよ』




 その言葉が、まるで世界の“定義”を上書きするように広がっていった。


 誰かの涙が落ちた。

 誰かが目を覆った。

 誰かが、口に出してつぶやいた。


「……リオ」


 それは、ただの呼び名じゃなかった。


“ローリンガール”というラベルは、

“Lawling Girl”――ルールの外にいる存在――という封印だった。


 それを、蓮の言葉が壊した。


 ローリン=ルールの外にいたからこそ、世界そのものを揺らせる存在。


 認められていないからこそ、

 否定されてきたからこそ、

“正しさ”に疑問を投げかけられる唯一の声。


 それが、リオの存在意義だった。


 


「蓮……」


 リオは立ち尽くしていた。


 今もなお、自分のすぐそばにいるような気がする。

 でも、彼の姿はもうどこにもなかった。


 ただ、足元の記録装置が静かに光を放っている。


 モニターの中には、一つのファイル名が表示されていた。


 > 【LAWLIN_RECODED:RIOTRUE】




 その名は、かつて“抹消された”記録番号。

 だが今は――“再記録された真実”という意味を持っていた。


 モニターが自動で再生を始める。


 今度は、リオの声だった。


 『わたしは、ここにいた。

 存在しないって言われても、

 名前が消されても、

 声が世界を壊すって言われても――

 それでも、生きてた。』




 その言葉に、空気が震えた。


 そして、教職員のひとりがポツリと呟いた。


「……学園の“法則”が、揺らいでいる」


 そう、リオの声は“力”ではなかった。


 それは、“問いかけ”だった。


 なぜ君たちは黙っているのか。

 なぜ正しさに従い続けるのか。

 なぜ間違いを“消す”ことを選んできたのか――


 誰も答えられない問いが、空を覆った。


 リオの目には、もう涙はなかった。


 彼女は、蓮が最後に記録してくれた“自分”を見つめながら、呟いた。


「わたしは、“ローリンガール”じゃない。

 これは、“世界を揺らした少女”の名前だよ」


 風が吹いた。


 その音は、誰かの心の奥に残ったまま、

 静かに、でも確かに、世界の形を変えていった。

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