第10話 最初の異変
それは、小さな異変から始まった。
その日も、ローランク・エリアの教室は静かだった。
だが、午前10時13分――教室に取り付けられていたモニターが、突然ブラックアウトした。
同時に、廊下の監視カメラも一時的に映像を失った。
報告されたのは「システム的な誤作動」。
しかし現場の誰もが、うっすらとした“違和感”を覚えていた。
異常が起きたのは、彼女が、声を発した時間と一致していた。
「……リオ、これ、見て」
蓮が手にしていたのは、管理室から回収されたログデータだった。
非公式ルートで入手したそれには、教室内の監視が“8秒間だけ消失”していたことが記録されていた。
「明らかに不自然だ。
停電でもないし、ハッキングでもない。
ただ、“記録できなかった”だけ」
その言葉に、リオは静かに息をのんだ。
声が、空間を“書き換えた”。
夢で見たような光景が、現実にも起き始めている。
「君の声には、世界の“記録”を消す力がある。
いや……“認識”を断ち切る力、かも」
蓮は続ける。
「名前が消されてたのも、出席番号が抹消されたのも、
その力を“無かったこと”にしようとした誰かがいたからだ」
リオは、胸の奥がざわつくのを感じた。
自分が“いる”という事実が、誰かにとって“不都合”だった。
だから、すべてが消された。
存在も、名前も、記憶も、記録も。
「……じゃあ、私が声を取り戻したら……また、全部壊すの?」
「違う」
蓮の言葉は、迷いなく強かった。
「今度は、君の声で“壊された誰か”を救える。
君の声は、ただ破壊するんじゃない。
本来あった“真実”を取り戻すための、唯一の手段なんだ」
リオは、静かに立ち上がる。
手のひらには、あの古びた名札。
LA…LIN G… 今なら、もう見間違えない。
それは、誰かが付けた“記録外”のレッテルではない。
自分の“名前”だ。
その瞬間、机の上の目覚まし時計が、カンと音を立てた。
動くはずのない時計が、ひとつだけ針を進めた。
10時13分。
再び、世界が揺れ始めていた。
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