【番外編】ノクス、村猫に弟子入りする
すべてのきっかけは、あの日の朝だった。
「……にゃあ」
クローネが四足歩行でレイガの膝に乗って甘え始めた、あの恐怖の“猫モード事件”。
ノクスはそれを、黙って、じっと見つめていた。
静かに。まばたきもせずに。
◆
その夜——
「……ねこ。なりたい」
言葉にするのは、勇気がいった。けれど、嘘ではなかった。
ノクスは思っていた。
「猫」は、いい。
何も言わなくても、誰かがそばに来てくれる。
静かで、やさしくて、でも少し自由で。
「……あんなふうに、誰かに……甘えて、みたい……」
そう思った。
けれど、言葉で甘えるのは、むずかしい。
だから——なろうと思った。
猫に。
◆
次の日、彼女の姿がどこにも見当たらなかった。
「ノクス? ごはんの時間だよ〜〜」
「えっ、影の中にもいないんだけど?」
「まさか、またぬいぐるみに埋もれて……」
だがその夜、村の裏路地で目撃情報があった。
「……まて。今、動いたぞ。草むらの中」
ミオナが指差した先には、
黒いぬいぐるみのような何かが、猫の群れと一緒に移動していた。
「やばいやばいやばい。猫たちと自然に馴染んでる……!?」
ノクスはそこにいた。
猫の間にいて、何も言わず、ただ同じように丸まって、
ときどき小さく喉を鳴らしていた。
誰にも気づかれないように。
でも、誰かに気づいてほしくて。
◆
——翌日。
レイガが畑の草むらに座ると、どこからともなく“黒い何か”がにじり寄ってきた。
「……にゃ」
「ノクス、いた!!」
レイガの足にぴたりとくっつくノクス。
そして、猫たちも次々に寄ってくる。
「どういう信頼関係!?」
フィーネ「えっ、この中で一番“猫っぽい”の、ノクスじゃない!?」
セリス「生態系が再構築されている……」
クローネ「……尊敬。私より、猫度が高い」
ルミア「もしかして……名を授けたら、本物の猫になっちゃうのではっ!?」
リュミエ「猫のぬいぐるみ……つくろ……」
◆
レイガは、懐から干し肉を取り出した。
「……ノクス、おいで」
ノクスは、ぴくりと反応し、猫たちの間を抜けてゆっくりと歩いてきた。
その歩みは、静かで、ためらいがちだった。
——来てもいい?
——ほんとうに、甘えてもいい?
レイガの足元に、ちょこんと座る。
「……うまかった」
そして、膝にちょこんと頭を乗せて、
「……レイガ……ぬくい」
それはきっと、ノクスにとって、
「ありがとう」や「だいすき」と同じくらい、
大切なことばだった。
◆
夜の静寂の中、猫たちとノクスの小さな寝息だけが、心地よく響いていた。
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