第23話 山羊の独り言。後編。今度こそ終わり。
いろんなやつがいた。でも魔法ランドに招待したいと思える者はなかなかいなかった。
そんなある日、見つけたのが順平だった。
彼は、フィリピンのサン・ファニーコ橋の欄干にずっと寄りかかっていた。自殺でもする気かと興味がわき、しばらく眺めていたが、いつまで待っても彼はそこから飛び降りなかった。ずっと自分の手を見ながらブツブツつぶやいている。
「捨てるべきか。売却すべきか。それが問題だ」
彼が見つめていたのは小さなダイヤのついた指輪。
「くっそー。腹立つ。こんなもん、捨てっちまいたい。でもこれと旅費で今貯金ゼロだしなあ」
女に渡そうとしていた指輪を捨てる決断が出来ず悩んでいる順平を見て、僕は何を思ったのか、多分何も考えていなかったのだと思うが、ついつい自分の手を差し出してまった。
順平は僕の美しさに呆気にとられた様子で僕に見とれていた。そう。その頃、僕は女の子の姿をしていた。
実は僕は自分が生まれた時に、男だったのか女だったのか記憶にない。何度も姿を変えすぎて、本来の性別も定かではなくなってしまった。親に聞けばわかるんだろうが、その親もどこにいるのやら。ちなみに今の僕はキュートなオス山羊だ。
そして順平は僕の美貌に惑わされたのか、やけっぱちになっていたのか、その指輪を僕の指にはめてしまった。
婚約成立だな。もちろん順平はそんな事知る由もない。僕は指輪を返さず姿をくらましてしまったから、順平はダイヤの指輪を見た事もない女にうっかり奪われてしまったと思っているはず。
ちなみにその指輪は石の色だけ変えて、今も僕の中指におさまっている。薬指につけるには、サイズがやや大きかった。デザインは変えていないのに鈍感な順平は気づかない。
今は本物のグリーンダイヤモンドの指輪。指輪の価値はかなり上がったんじゃないか? 返すつもりはないが。
そして魔法ランドで順平に再会し、一緒に旅をして五年。過ぎてみればあっという間。
順平のアホそのもの一直線さは見ていて飽きなかったし、気楽なハンター旅は楽しかった。99%、敵モンスターは僕が退治していたが。
そんなある日、僕と順平は洞窟にいるという恐ろしく強いモンスターの噂を耳にした。そこで僕らはポイント稼ぎのため、そいつを倒しに洞窟に出向いた。
モンスターに遭遇し、僕は驚いた。だってそいつは僕が作ったキマイラで、ついでに山羊女の体から引き抜いた姫様の魂を封じ込めた獣でもあったから。
自分でもどうかと思うが、かなり前の事だったし、そんなものを作った事もキレイさっぱり忘れていた。
姫様はほとんどの時間、キマイラの中で眠っていたが、戦いになると目覚め、身体のパーツを担当する四人に僕と順平を倒させようとした。
僕が作った時よりもキマイラは経験を積んで強くなっていた。僕は自分の戦いに夢中になって、順平を守り切ることが出来なかった。気付くと順平は消えていた。
「どこ行ったんだ? もしかして死んじまった?」
僕たちが旅をするようになってから初めて、順平はモンスターに敗北し、そして消滅した。
僕は順平を消したモンスターを半死半生の状態まで痛めつけると、そのままそいつを放置してそこを離れた。
「ポイントは確かぎりぎり残ってたよな。そのうちまた戻ってくるか」
わざわざゲートまで順平を迎えに行ってやったのに見つからず、もしかしたらポイントを何処かで使い切って、もう戻ってこないのかもしれないと思った。
そして僕は結構派手な事をやらかしてしまったせいか、老師に学園に戻るように命じられた。
もし順平が戻ってきても、僕はその隣にはいない。だから弱過ぎるあいつに相棒を探そうと思った。順平は日頃から女の子の仲間が欲しいと言っていたが、なんとなく不愉快なので一番お手軽そうなアイツの弟を招待する事にした。
弟の居場所を探すのに苦労はしなかった。順平はこっちに来る前、弟と二人で組んでお笑いという仕事をやっていて、ちょっとだけ有名人だったから。
だが残念ながらアイツの弟も戦士には全く向いていなかった。だから僕はスカウトマンの権限で、弟にありったけの一生使いきれないほどのポイントを与えてやった。ちっちゃいヒトの姿で。
そうこうしていた間に、順平が魔法ランドに戻ってきていた事を僕は知る。
この魔法ランドは意外に狭いので、兄弟が遠からず出会う可能性は高い。
窮屈な学園に無理やり戻され、教師の仕事を続けながら、僕は順平と弟俊平の動向を常に追っていた。
「いつまでそこでモタモタしてんだよ」
見ていてついイライラしてしまう。
弟は兄と違って慎重なタイプなのか、なかなか上級コースにチャレンジしようとしなかった。が、同行者(なんとあのサムライだ!)のためについに決断し上級者コースに脚を踏み入れた。
そして、とある宿で働きながら長期宿泊していた順平とやっと再会した。
順平には仲間が五人増えた。
今は侍が消え、僕を含め五人+一頭のパーティ。
残念ながら、山羊でいる時の僕は剣は使えない。たが魔法使いとしては優秀だ。かなり高レベルの魔法だって使える。僕がいれば他の仲間はいらないはずだ。そこで僕は俊平にある事を提案した。
「その通行証もういらないよね? 順平に譲って故郷に帰れば?」
「いや、俺が帰るときは兄ちゃんも一緒だ」
「どうして? 俊平はハンターになんか元々興味なかったのに?」
「ハンターには興味ないけど、兄貴と漫才するのは好きだった。だから一緒に帰ってまた二人でお笑いの仕事をする」
そっちか。
「順平の方は当分帰る気なさそうだけどな」
「だから俺考えたんだ。ここで漫才できないかって」
魔法ランドで漫才!?
モンスター狩りながらお笑い巡業するわけ? そんなの聞いたことない。
「兄ちゃんに話してからだけどな。どっかに演芸向けの小屋建てたっていいしさ。俺は金というかポイントだけは使い切れないほど持ってるし」
そのポイントは僕が手持ちの全てを渡した結果だけどな。
「でもさ」
と、俊平が言う。
「サダメくんはなんで俺たちと一緒にいるんだ? 学園に戻れば山羊の姿でも教師はできるんじゃないの?」
「!?! そんな恥ずかしい事出来るわけないよ! 生徒たちにバカにされるに決まってる」
「案外、人気者になれるかもよ。山羊姿のサダメくんも結構カワイイし」
「愛玩動物にされるのなんかもっとイヤだ!」
「山羊の先生って面白そうだけどな」
僕は面白くないんだ。
「俊平は僕がいる方が心強いよね? 銀と尚也だってお迎えがいつ来るか分からないんだし」
「そうなんだよな。俺と兄ちゃんがいくら頑張ってもここのモンスターに勝てる見込みはほぼない。だからいっそ初級者コースからもう一度修行しなおしてもいいかなって」
「初級? そんなまどろっこしい事、僕は絶対にイヤだからな!」
「だからなんでサダメくんはついてこようとするんだよ?」
そんなの知るか。考えても分からないことは考えないことにしている。
そして今日も僕は弱っちい兄弟を山羊の姿で後方から守っている。
実は皆には内緒にしていたが、もう一つ隠している事がある。
あの洞窟にいた地底人。あれを集団でまるごとあそこに連れ込んだのは実は僕だ。
どこからか? 地球からだよ。UFOやUMAの存在をまるで信じていない人が多いけれど、誰だって全てを知ってるワケではないんだ。発見されていない謎な生き物だってまだまだいる。
僕は単に魔法ランドの探索パターンを増やしたいだけだったんだが、もし地底人の事がバレたら、白雪がまたブチ切れる気がする。
あいつは昔から僕のやる事全てが気に食わないんだ。マジめんどくさい。
今は銀にポ〜ッとなってて、僕のことはほぼ無視だが。あのコが地球に帰ってしまったらどうするんだろうな。白雪も地球について行って、二度と帰って来なければいいのに。
そんなこんなで、僕達は今日も楽しくモンスター狩り。
いってきますね。
マジカルミステリーつ、あー 芝山紺 @tako808
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