第4話 「どうするのが一番いいのか分からない」
そして俺たちは食って食って食いまくり、酒があると聞くとそれも注文した。しかしポイントはわずか500ポイントほどしか減っていない。この調子ではいくら豪遊したって9999万ポイント消費するのは容易ではなさそうだ。この街には高級クラブなんてものも存在しない。それこそモンスター退治で命を落として復活するしかないのか。
玉さんの話では一回復活するのに10万ポイントは必要らしい。では千回近く俺は死ななきゃなんないのか。イヤすぎる。
そもそもなんで俺の通行証にはこんなに大量のポイントがついていたんだ?
「通行証はチケットとの交換になる。俊平どののチケットはかなり価値のあるものではなかったのか?」
「あれが? まだ2枚残ってる」
俺が財布から虹色に輝くチケットを取り出すと、玉さんが眩しそうにそれを見た。
「これは噂に聞くレインボウチケット。手に入れるには、自分の持つ最も価値のあるものとの交換しかないと聞いた。現実に存在していたとは。一体いかなる手段でこれを入手できたのか」
最も価値あるもの? あのマイクが? 確かに俺の大切な仕事道具だが。
「緑色の小さい人にマイク奪われただけだよ。あの人今から思うと宇宙人か何かだったのかな」
「マイクとは?」
「? マイク。知らないの?」
玉さんが大真面目な顔で頷く。冗談を言うタイプではないようだし、どうやら本当に知らない? どういう事だ。コスプレではなくて、本当に江戸時代の人? いや、まさか、そんな。
「玉さんが生まれたのっていつ?」
「天保元年」
「てんぽう……」
まじか? 天保の大飢饉って習った事あるな。それがいつだったかは忘れたが。
「ここは時空、人の種類、生き物、すべてがでたらめに寄せ集められている場所。夜空に輝く星から来た者もおるとか。俊平どのも見たであろう。とても人とは思えぬ姿の者どもを」
「頭がおかしくなりそう」
侍が小さく笑った。
「わしもここに来て間もない頃は己が気のふれたのかと思ったものだ。だがこれは受け止めるしかない、わしたちにとっての紛れもない
受け止めるしかない、か。俺は玉さんの助言をもらいながら、これから旅をするために必要な装備を揃えることにした。ポイントが大量にあるのだから、めいっぱい高価で強力なものをと思ったが、この村には安価なものしか置かれていなかった。序盤という事で仕方がないらしい。
モンスター退治をはなから諦め、この村で適当に家を建てて暮らすという選択もアリという事だ。それなら武器や防具はせいぜいコソ泥対策程度のもので十分だ。でも俺は一生をここで終える気にはなれない。多分この何にもない田舎で9,999万ポイントを使い切るのには一生では足りない。
そうなるとやはり玉さんについていって、鬼魔異羅に倒された玉さんを復活させながらポイントを消費するのが一番効率的かも。けれどそれだと俺の身にも危険が及ぶ。モンスターは俺を避けて玉さんだけを上手く狙ってはくれない。死ねばポイントを使って自分を復活させる事は出来るし、ポイントが足りなければ元いた場所に戻るだけの事。だが。死ぬときはきっと怖いだろうし、ものすごく痛いかもしれない。マジ勘弁してくれお願い。
ここで手に入れた防具は全て革製で、胸と腹を守るための硬いベストと、脛あてと肘まである手袋だった。それに分厚い生地のフードをすっぽりかぶるだけ。革のブーツはサイズも微妙で履き心地が良くなかったので、来た時のままのスニーカーをこれからも履き続けることにした。
そして武器は唯一店に在庫があった木こりの斧。
「一番最初の武器はそんなものだろう。わしもこの刀を手にいれるのにずいぶん苦労したものだ」
いつかは俺も死を覚悟する羽目になるんだろうな。それにしたって。
「せめて最初は真ん中の道を選んでよね」
そして俺たちはギャンギャンの村で一泊し、携帯用の食料と持てるかぎりの回復薬を買い占めると、再びゲート近くの分岐点へと向かった。
看板は以前見たものと同じ。
一番右の道には。【この先ギャンギャンの街まで2サト】 実際に歩いた感覚だと徒歩で約1時間半といろか。
真ん中の道には。【ここから初級モンスターが登場します。しっかりと武器や防具。魔法、回復薬等を準備した上で赴いて下さい】 準備は出来る限りやった。あとは玉さん、どうか俺を守っておくれね。
左端の道には。【行ってからのお楽しみ。上級ハンター以外にはお勧めしません】 やっぱり無理。
真ん中の道ですら気が進まない。そういえば魔法を用意した上でって書いてあるな。魔法ってどうすれば手に入るんだ?
玉さんに聞いてみると。
「魔法を会得した仲間を探す事だ」
「玉さんは魔法は使えないの?」
「わしが使えるのはこの刀の力を増幅するワザのみだ」
「魔法を使えるようになるのって難しい?」
「魔法の学び舎があるというが」
「どこに?」
「さきほどまで居たギャンギャンの街のさらに先だ。わしは行ったことはないが」
「教えておいてくれよ」
「すまぬ。忘れていた。だが今からでも入学の手続きは出来る。だがその前に適性試験があるらしい」
「魔法の適正試験って何やるんだ?」
「魔法についてはわしもよくは知らぬのだ。だが資質を持たぬ者は、どれほど努力しても魔法を身に付けることはかなわぬと言われている」
「誰でも魔法使いになれるってわけじゃないのか」
「試験を受けたいのなら戻ってもかまわぬが」
「いや、それはまたの機会にするよ」
適性試験まである学校なら、そうそう簡単には卒業させてもらえないだろう。何年もかかったとしても不思議はない。それに何よりも俺は、魔法が使えるようになりたいとはカケラも思っていない。
いや、待てよ。もし元の世界に戻ってからも、その習得した魔法が使えるとすれば、何かの役にたつのでは。けれど魔法って具体的に何ができるんだろうな。
かくして俺たちは真ん中の道を選び、記念すべき一歩を踏み出す。
この道を行けば、初級とはいえモンスターが出現するのだ。不安だが、玉さんがいるからきっと大丈夫。玉さんは「初級の敵は弱い」とはっきり言ってたじゃないか。
どのくらい進んだか。前方からドドド…と何者かが土埃をまき散らしながらすごい勢いで近づいてきた。
「なに? モンスター? ポイントゲットできる?」
「いや、違う」
玉さんは冷静に否定すると、近づいてくるそいつに向かってじっと立っている。両手は
俺がどうしたものかと考えていると、玉さんが俺の肩を掴んで道の端っこに押しやった。そしてすごい勢いで駆けてくる丸っこい生き物を刀ではなく、脚で思い切り蹴ったのだ。毛むくじゃらの丸っこい身体が吹っ飛んでいった。俺の知る生き物で言えばイノシシに近いかも。
気絶しているそいつを見降ろして、玉さんが俺に尋ねる。
「この先に宿がある。持っていけば売れるがどうする?」
「どうするのが一番いいのか分からない」
玉さんは厳しい顔で転がっているイノシシを見ていたが、やがて口を開く。
「どうやら死んでしまったようだ。せずともよい殺生をしてしまった。わしがこれを捌いて俊平と食す事にしよう」
そして宿で道具を借り、教えられた場所で玉さんは解体作業を行った。俺は魚を捌く事は出来たが獣は初めてで、かなりショッキングな初体験だった。
食欲は失せていたが玉さんが丁寧に調理してくれた猪っぽい肉を俺は食べた。それは俺にとって生まれて初めて口にするジビエ料理だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます