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「おいおい、あれはなんだ」
早朝、警察車両の助手席からの眺めに、ライリー・クロフォード巡査は驚愕した。
「なんだって、何のことだ」
上司の警察官が答える。
「あれさ、警察署の前で、倒れてる、あの腕のない男だ!」
「あいつか、痴漢魔だ、右手でやったという証拠が監視映像に残ってたから、右手を吹き飛ばしたんだ」
「はあ...おい、まじかよお......!」
ライリーは胸に十字を刻む。
だが、またしても悍ましいものを目撃する。
「おい...嘘だろ......」
道の脇に設置されたゴミ箱の方を見る。
「なあ、あの......おそらく、ちょっと前までは人間だったであろう、あの血まみれの塊はなんだ!もう!頭がおかしくなりそうだ!」
震える声を出しながら質問する。
「あれは18の女だ」
「はあ...!?」
「2軒先のスーパーで万引きをしたんだ、電子機器だかを盗んだって」
「それだけで、ああなっちまうのか!」
「いいや、慈悲は与えたんだ。裁判を経由して刑務所にぶち込まれるか、二度と万引きができないように、腕を切り落とされるか、どっちがいいかを聞いたそうだ。そしたら、捜査官の腕に噛み付いて逃げようとしたのさ。だから、もう二度と逃げないように足を切り落とし、ついでに腕も切り落としたそうだ。俺がやったわけじゃないし、昨日の晩にはああなってた」
ライリーはただ、唖然呆然とした顔を浮かべ、小刻みに息をする。
「落ち着けよ、ライリー。だが、みんなそうだ。始めのうちは慣れない」
「な、慣れていいもんじゃないでしょう!」
「ははは、俺もお前みたいな時があった」
目の前で話している上司が、どうしてこうも平然としていられるか理解できなかった。
「お前も、そのうちわかる。権力を最大限に発揮できる快楽をな」
「そ、そんなもの...楽しめませんよ!」
「でも、この街の治安が向上したのは、我らが正義の”完全浄罪法”のおかげだろ。ヴィーガンや反政府主義者を街から消してくれた。ああそうだ、期間限定の、ヴィーガンの生首博物展、あれは少々悪趣味だったがな」
この状況に異を唱える顔をしているライリーだが、彼もこの後、初の実戦任務が与えられていた。
「ライリー、頼むからヘマはするなよ」
「あ、ああ......殺しはないんだよな?」
「そのことについてだが、今回は、裁判所送りにはしない。署長の要請だ」
「逃すのか」
「おいおい、ここに来て冗談だろ。罪を白状してもらって、死んでもらうんだよ」
ライリーは、与えられたファイル資料を確認する。
容疑者の名前は、ウィリアム・ターナー。罪状は、センチネルシステムズ社へのクラッキング。
センチネルシステムズは、今や第二の警察組織と言われる存在だった。民間の軍事会社で、街の至る所に設置された監視システムに関わる機器は、全てこの会社の管轄にある。警察にあらゆる情報を提供、時には実戦部隊を貸し出したりしている。政府からの資金援助も手厚い。
こんな会社にハッキング行為を行ったのだから、当然タダで済まされるはずはない。万引きや痴漢の犯人は腕が切り落とされたことを考えれば、ウィリアムはもはや挽肉になる運命かもしれない。
ライリーは深呼吸をして、再び胸に十字を描いた。
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