打ち寄せる
やってみる
第1話
川沿いの堤防を歩く。風は常に向かいから吹いている。
だが気温は暖かく、上着を着てこなかったが寒くはなさそうだ。
ふと気づくと前を歩く人がいる。
いつの間にか脇道から上がってきたのだろう。それとも追いついてきたのか。
川の流れは逆流している。ゴミがすれ違っていく。満ち潮の時間だ。
前を行く人とは一定の距離のままだ。エンジ色のスカーフがひるがえっている。
急に冷えた風を感じると、今までの暖かな空気と入り混じる。
少しカーブがかった道の向こうに海が見えてきた。川とつながる。海になる。
砂浜に降り立つ。波は荒い。この間見た様子と違い、茶色く砂を巻き上げ濁っている。
満ち潮は返らない。打ち寄せるだけだ。
風は常に吹きつけて、海に向かう側の身体の体温を奪う。
寒い。帰りたい。
帰る前にもう一度、海をみる。何度も同じようで違う波。
波間に何か流木が浮いている。いや、ゴミか。
赤っぽい布も長く漂っている。
いや、違う。流されてない。人だ。
なぜ?何故そんな事をする。そんな事ができる?一歩一歩冷たい波に自分を進めていけるのか。
私は寒くて振り返った。
砂浜は遠く誰もいない。
顔に波がかかる。苦い。
あと一歩。私は波に翻弄されながら進む。苦しい。海よ。私を抱き止めて楽にして。勇気のない私を戻れないように。
砂浜で私が泣いている。
生きたい!生きたい!
でも、もう。
打ち寄せる やってみる @yasosima91
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