【ソフト官能小説】雨音に溶ける嘘

魔魅

第1話 濡れゆく夜に

雨音が、夜のビルを包んでいた。

定時を過ぎたオフィスに残るのは、佐伯陽介と、派遣社員の美咲だけ。


湿った空気が窓際から流れ込む。


湿気を含んだ風が、彼女の髪と、ブラウスの胸元を優しく揺らす。乳房の膨らみが、ふいに目に入って視線をそらした。


だがその一瞬の動きさえ、美咲は見逃さなかった。


わざとらしくファイルを差し出す指が、陽介の手に重なる。

ほんの数秒。

けれど、その熱が指先から腕、そして下腹部へと落ちていく。

彼女の体温が、じわじわと染み出すようだった。


「……コーヒー、いれますね」 美咲が立ち上がる。その瞬間、白いブラウス越しに下着の縁がわずかに透けて見えた。


視線が吸い寄せられる。

雨に濡れたような質感が、布の下に肌の柔らかさを想像させた。

彼女が戻ると、手にしたマグカップから熱とともに甘い香りが漂った。

膝を寄せ、カップを渡すとき、胸元がすっと陽介の肩に触れた。柔らかく、弾力のある感触。


反射的に顔を背けた彼の耳元で、美咲が小さく息を漏らした気がした。


「奥さんは、今夜……いらっしゃらないんですか」

ぽつりと落とされた声に、陽介は目を伏せて頷いた。


視線の先で、彼女の膝がわずかに動き、スカートの隙間から太ももの内側が覗いた。


生地が張りつくように肌に沿い、指を這わせたくなる質感が目を刺す。

「……怒らないでくださいね」 そう言って美咲は陽介の膝に手を置いた。冷たくも熱を孕んだ指が、静かに滑っていく。


陽介のスーツ越しに伝わる体温。男の本能が、ゆっくりと呼び覚まされていくのが、自分でもわかっていた。


……ずっと、こうしてみたかったんです」

美咲の声が、耳元で熱を帯びる。

膝に置かれた手が、ゆっくりと太ももをなぞりながら、陽介の股間の手前で止まる。


ただ熱を伝える距離で静止したまま、もう一方の手がそっと胸元にかかる。

ボタンをひとつ、またひとつと外しながら、


美咲は陽介の膝に腰を落とし片手は布越しの下腹部に添えたまま、静かに密着する。陽介の視線が、ゆっくりと胸元の隙間へ吸い寄せられる。レース越しに浮かぶ乳房の膨らみが薄闇に揺れていた。谷間を流れる汗の一筋に、陽介は喉を鳴らす。美咲の指は、スラックス越しにほんのわずかに動き

陽介の硬さをそっと確かめるように押し返す。鼓動を感じとる指先に、美咲の唇がゆるむ。焦らすように、動きはまだ浅くスラックス越しの指先が、陽介の形をなぞるようにゆっくりと動いた。

布の下で昂ぶる熱に、美咲の吐息がわずかに震える。


彼の反応を確かめるように、指が一度止まり、それから柔らかく撫で上げる。ぴくりと跳ねる感触に、唇の端がわずかに吊り上がった。

そのまま、美咲は体をわずかに前に倒す。胸が陽介の顔に近づき、吐息が彼の頬をかすめる距離で、指先はゆっくりと彼の股間へ滑り込んだ。


生地ごしに伝わる熱を確かめるように、ゆっくりと撫で、押し当てて反応を探る。


やがて、美咲は無言のまま膝から降り、静かに彼の正面へと体を移した。

膝を折って沈み込み、目線を自然に彼の股間へと落とす。

指先でジッパーの金具に触れ、ゆっくりと音を立てないよう慎重にファスナーを下ろす。


ズボンの布が緩むと、下着の形が露わになる。

その上から指を滑らせ、柔らかく包み込むように撫で上げると、彼の体がぴくりと反応した。

さらに唇を寄せ、下着越しにそっと舐める。


そのまま、指で下着の縁をそっとつまみ、わずかにずらすと、熱を帯びた肌が空気に触れて震えた。


露わになった先端に彼女の吐息が落ちる。

間を置いてから、たっぷりと唾液を含ませた唇で、愛おしそうに咥える。


じゅ、と音がひとつ。

オフィスに響くその濡れた音が、空気の温度を確実に変えてゆく。


湿った熱が、やわらかく包み込む。

抵抗することも、抗うこともない。ただ受け入れるその温もりに、陽介の指先が椅子の肘掛けをきゅっと握った。


美咲は、わずかに頬を動かしながら奥へと誘う。

愛おしむように、優しく。決して急がず、相手の熱を受け止める時間を楽しむかのように。


口の中で形を確かめながら美咲はふと視線を上げる。

そのまま陽介の顔をじっと見つめ、まるで彼の反応を“味わう”ように、ゆっくりと頬を動かす。

長い睫毛の奥で目が細められ、何かを愉しむような表情。

唇は静かに動き続け、過度な音を立てることなく、柔らかな圧と温もりだけで彼を包み込んでいた。


片手は彼の膝に軽く添えたまま、もう片方の手がそっと動き出す。

根元に指先が触れ、わずかに滑らせる──決して強くは握らず、ただ“存在”を確かめるような繊細なタッチ。


陽介の身体がわずかに震えるのを感じながら、美咲の口元がわずかに吊り上がった。

意図的に、そこで動きを止める。ぴたりと。


まるで問いかけるように、彼を見上げたまま動きを止めることで、次の一手を“彼に選ばせる”かのように。

主導権は握っているのに、そう見せない。


それが彼女のやり方だった。


ぴたりと止まっていた動きが、再びゆっくりと始まる。

唇の形を変えずに、美咲は首の角度をわずかに傾け、舌の動きに変化をつけていく。


指先も同時に動き出し、根元からぬるりと滑らせながら、微細なリズムを刻む。


まるで彼の鼓動に合わせるように、緩やかに、深く──そしてまた、浅く。


陽介の肩がかすかに揺れ、呼吸がわずかに乱れる。

喉の奥から押し殺すような声が漏れ、それを聞いて美咲は満足げに目を細めた。


唇が、少し強く締まる。

濡れた音がひとつだけ、はっきりと響いた。

静かなオフィスに、それは妙に艶めかしく残る。


彼の手が無意識に美咲の肩へと伸びてくる。

だが彼女は、首をすっと引いた。


唇を離すと、糸のようなつやを残して、美咲は静かに息を吐いた。


視線は逸らさず、挑むでもなく、ただ静かに陽介の奥を試すように見つめてくる。


その夜は、結局、果てさせてもらえなかった。

口づけひとつなく、ズボンの皺を整える彼女の手元を見ながら、陽介はそれを悟った。


唇の熱がまだ残っている気がする。

喉の奥で滞ったままの衝動は、発散先を失って身体のどこかに滲みついていた。


「……また、明日」


そう呟いて先に部屋を出た美咲の後ろ姿に、陽介は何も返せなかった

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