第2話

「なーなー、。美月、席離れて寂しいよな〜……俺ら毎日楽しく話してたのにさまじで最悪すぎるわ〜」

「は、誰? あなたと話した記憶ないのだけれど。気持ち悪いからあっちいってもらえる?」


 比崎は俺に向けていた鋭い目つきに比べて更に細めると、軽蔑の感情をより一層露にする。

 

「おっと、そうきたかよ……ははっ!」


 男は野暮ったい笑みを浮かべた。


 金髪のウルフヘア。加えて、片耳にピアスをしたいかにもチャラい見た目の生徒──上原悠。顔はもちろん、イケメンで順当に勝ち組のカーストトップを占有している。

 スペックは上の上、無論これでモテないわけがない。入学して早半年程度、付き合った人数は10人を超えているようで陽キャグループ内での会話がよく聞こえてくるのだ。


 決まって俺は呆れた思いを抱く。単に虚勢を張っているわけではない、だって恋愛に日常を縛られているようでしんどそうじゃないか。もう一度言う、羨ましくはないぞ!

 …………しかし、どんなペースだよ、1ヶ月も続いてねぇじゃねーか。本人曰く、この学校の可愛い女の子をコンプリートすると公言している。だから、付き合った期間とかは眼中にないらしい。


 強くなりすぎたらポ〇モン図鑑を埋めるしかする事がないのと同じ原理なのだろうか、俺は非モテだから理解し難いが目の前のジムを攻略するのにも手が負えないので残念ながら余す手もない。その境地に達する時は未来永劫ないだろう。

 

 対して、比崎はいつものように冷たい態度をとる。

 

「で、何か用なの? 用がないなら席に戻って」

「別に用はないけどなんか話さない?」

「なぜあなたと話さなきゃならないの、時間の無駄ね」

「俺、美月の事好きなんだよね。だから話したいんだ。そっちも話したいと思ってたでしょ?」


 横で会話が繰り広げられる中、俺は興味なさげに頬杖をついて窓の外をぼーっと見つめる。微妙に開いた窓からは秋を知らせる雁渡かりわたしの風が肌を撫でた。

 けれども、意識はしっかりと耳に集中させていた。つまるところ、盗み聞きってヤツだ……自分で言うのも何だが趣味は悪い。

 

「あなたの事嫌いなのだけれど……それに私は今話している人がいるから邪魔しないでもらえる?」

「……へぇ、誰? 話してる人って?」


 話してる人って目の前の上原しかいねーだろ、何呑気な事言ってるんだ? 亡霊でも見えてんのか。

 亡霊っつーと、なんかこの前テレビでやってたな。確か、『世界のUMAとお化けを大発見! 〜動画に捉えられた未確認生物を見よ!〜』とかいう訳の分からん番組が放送されていたな。

 一体なんなんだよあれ、合成だろ。しかも下手くそだし。普通に考えて一人でいる時に、日常の一片をわざわざカメラ回さないし二番煎じの似たような動画多すぎる────

 

「ね、星谷くん?」

「…………え?」


 比崎の声に回顧から醒めて、頓狂な声を上げる。

 すると、上原はこちらを一瞥して小首を傾げていた。

 

「……星谷?」

「そうよ」

「さっき、先生も言ってたでしょ。残念ながら今自己紹介中なの。早く目の前から消えてくれる? 今、私は星谷くんと話しているんだから邪魔しないで」

 

 上原はつまらなそうな目でまた俺を見据えて、ポキポキと指の間接を鳴らしている。……こっわ殺されるんじゃねーの、これ。

 ……ふざけんなよ比崎の野郎。俺を巻き込むんじゃねーよ。面倒事は嫌いなんだ、俺は細々と暮らしたいのに。

 

「…………まぁ、いいわ。じゃあな」


 全力の右ストレートを顔面に、はたまた罵詈雑言の火炎放射が放たれるのを想像していた俺は呆気に取られた。

 カーストトップに目をつけられる事は死を意味する。席替えのくじだけで俺はとんでもない不良品を握らされてしまったらしい。


 隣の席になった美少女──比崎美月との出会いは、はっきり言って最悪だった。

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