追放されたSランク冒険者、ラスダン最深部で転生賢者を拾う~ ゲーム世界では戦死するらしいので全力で生き残ってみた~

紙村 滝

第1話 金の切れ目はパーティーの切れ目、追放の始まり

 ただの平日午前中。冒険者ギルド。


「ダンテ。ほれ、お前らのSランクパーティーとして初めての報酬だ。また一歩『勇者パーティー』に近づいたな」

「ありがとう。って、これ全部か?」


 目の前に高く積まれた金貨の山に口角が上がる。

 ざっと計算しただけでも100億くらいか。貴族でも1年間は遊んで暮らせるほどの金額が目の前に俺たちの所有物として現れている。


 俺はダンテ・トロワ。ただの冒険者だ。歳は20。

 独りソロで冒険者活動をしていたところを、15の時に今いるパーティー『黄金の林檎』のリーダーのバリスさんに拾われた。


 当時はパーティーメンバーも俺とバリスさん、そのほか数名の小さなパーティーだったが、年数を重ね実績を積み重ねていくうちに50名を超える大所帯となり、今では王国で一番有名なパーティーとまでうたわれるようになった。


 どんなに大きくなってもクランと名のらない理由は知らない。


 そんな大所帯のパーティーが冒険者パーティーの最高位であるSランクに到達したのがつい先月のこと。


 今日、俺はリーダーのバリスさんの名代としてSランクに昇格して初めての報酬を受け取りにギルドマスターのもとにやってきているのだった。


「なにスカしてんだよッ!! ほら、大金だぞ喜べ!」

「そ、そうだよな……! ありがとう! これはきっとバリスさんさんも喜んでくれるよな!!」


 バンバンとガタイの良いギルドマスターに背中を叩かれながら思い切りガッツポーズをするのは、なんとも言えない達成感と気持ちよさがあった。


「そういや、バリスはどうした? ってか、この金もリーダーが取りに来るべきだろ」

「バリスさんは次のダンジョンの準備してる。なんたってあの『地獄門』に行くんだからな」

「あのダンジョンに行くのか? そこまで金に困ってないだろ?」


 ギルドマスターはスタッフによって特大サイズの皮袋に回収されてゆく金貨の山を眺めていた。


「困っている人がいるなら、休んでいる暇はないって言ってますよ」

「あいつらしいなぁ。ま、こっちとしてもSランクのクエストを消化してくれるのはありがたいんだがな。昔っから良い奴なんだよなあいつ。本当にあの『勇者』の生まれ変わりだったりしてな!」


 ダンテさんは俺が冒険者になって初めてあった先輩冒険者でもある。俺より4つ上の24歳で出会った頃にはすでにBランク冒険者として第一線で活躍していた。


 出会った当初、まだまだ新人だった俺に冒険者としての基礎や戦闘技術を教えてくれたのもバリスさんだった。


 当時は今日の晩飯にも困るくらいに困窮していたから見かねたダンテさんに何回も奢ってもらったっけな。


 そんな縁もあって、俺がBランク冒険者に上がった時にバリスさんの推薦で『黄金の林檎』に加入することができた。

 もうこのパーティーから離れないという証に俺は全財産をパーティーに共有している。


 そのことを知ってか、バリスさんは俺に多くのことを教えてくれた。


 今ではバリスさんがリーダー、俺がその補佐として活動している。


 それくらい俺の実力を認めてくれているし、信頼してくれている。


 ということで俺は真っ先にパーティーのリーダーであるダンテさんに伝えに行こうと、その足でギルドのある王都から『地獄門』がある街ランジェロへ早馬で向かったのだった。


 ☆


 ランジェロ、ダンジョン入り口付近。


「ダンテさん!! ギルドから報酬もらってきました!」


 ランジェロについて早々、俺はいち早くバリスさんに報酬金を渡そうと息も絶え絶えにダンジョンの入り口へ向かった。


「お、来たか。早かったな」

「さすがに大金をのろのろ運んでくる勇気はないですって……」


 大量の金貨が入った皮袋を下ろし、へたり込む俺の前に、キンキンの水が差しだされる。


 てか、なんで現金もっていかせんだよ! 貴族じゃないんだから使用人なんていないんだけど!?


「お疲れ。ほら水だ。氷魔法でキンキンだぞ」

「あ、ありがとうございます……」


 今は冷えた頭の痛みすら心地いい。


 水筒の水を飲み干し、一息つく。


「落ち着いたか。ついて早々なんだが、今回の『地獄門』探索ではお前を先遣隊に任命しようと思う」

「え? 俺を?」


 先遣隊はその名の通り本隊よりも先にダンジョン内に入り、階層のマップ作りやトラップの解除、次の階層へのルートを探る部隊だ。

 多くの場合、探索に有用な音波魔法エコーや使い魔を召喚できる召喚魔法を得意とする人間が任命される。


 そのはずなのだが、


「俺の得意魔法は知ってるでしょ? 付与魔法エンチャントでどうやって探索しろというんですか? 他に使える魔法もないのに」

「経験だ。一度は本来の役割以外も経験したほうがチームワークの向上につながるだろ。それに今回は俺も先遣隊だ」

「ダンテさんも?」


 ダンテさんの得意魔法の一つには確かに音波魔法がある。

 パーティーがまだ小さく、リーダーという役職の重要性が低かったころには率先して最前線を走っていた。


 その姿に憧れてこのパーティーに参加している者も少なくない。

 かく言う俺もその一人だ。


「ま、これが最初で最後だ。Sランクダンジョンでせいぜい苦労して散ってくるといい」


 そう言うとバリスさんはダンジョンの入り口の奥、深々と穿たれている縦穴を指さす。


 その腕にはおよそ国の誇りともいえるSランクパーティーのリーダーには似合わない禍々しい茨の装飾が施された籠手が着けられていた。


「なんですか、その籠手……」

「あ、これか? いいだろ。これを買うのにパーティーの金はほとんど使っちまったけどその分の価値はある」

「は……? パーティーの金って、たしか10億はありましたよね……?」

「そう、これ買うのに10億払った。文句あるか?」

「ありますよ! 俺の財産もふくんでるんですよ!?」

「お前の意見は聞いてない。明日早朝、『地獄門』入り口に来い。そこで処分は決める」


 そう言い残すと、バリスさんは宿のある方へ去っていった。


 パーティーの金を使い込んで装備を買った……?

 バリスさんしか装備できない籠手を一つだけ?

 それも財産を共有している俺に無断で全財産を消費した?


 意味が分からない。そんな人じゃない。そんな人に憧れてない!

 ありえない……!


 ダンテさん、あんたそんなことする人じゃなかっただろ……!?


 ─────────────────────────────────────

【あとがき】


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