抽象的な表現になってしまいますが、この作品は読む人の心に触れます。作者様はしっかりとした技巧をお持ちですが、技巧だけではこの作品は誕生しなかったでしょう。未熟な私では、この作品がこれ程までに素晴らしくなった理由を分かり得ませんが、一つだけ、これは理解ではなく願望ですが、書いた人の思いが込められた作品は読む人の深いところにまで届くのだと、重複になってしまいますが、私は希望を抱きます。AIの技術がどれだけ進もうとも、人が人の力と心で小説を書くことには意味がある、それを示してくれるこの作品に、プロの小説家を志望する人間として、感謝です。本当に、良い作品です。
『星の下、憧れの背中を追って』は、劣等感と恋を同時に描いた青春小説です。
星野優華は、学業も運動も成績優秀。
加えて周囲を明るくさせるキャラクターの持ち主。
そんな幼な馴染みである彼女の眩しさに香住透は憧れます。
そして、彼女に比べて自分は何もない人間だと思い込んでしまうのです。
その羨望はやがて嫉妬へ、ついには自己嫌悪へと姿を変え、透の心を深く蝕んでいきました。
本作の特徴は、主人公の行動ではなく、心の動きに焦点を当てていることです。
物語を動かすのは出来事ではなく、感情の機微とその揺らぎ。
透の内面が少しずつ変化していく過程そのものが、ストーリーになっています。
この演出の巧みさは、本作ならではの魅力です。
印象的なのは、恋愛小説で描きがちな〝思いが劣等感を生む〟という図式を描いていないことです。
本作は〝劣等感の果てに自分の気持ちを見つける〟という心の動きを描いているのです。
この新鮮な視点は、タイトルにもある〝星〟という言葉の扱いにも表されています。
本作での星は、憧れや望んでも届かない存在の象徴です。
透は、ずっと心に闇を抱えていたからこそ、より星の光の眩しさを知って見つめ続けてきたのでしょう。
これは苦しみや悲しみが、より得難い感情を際立たせていることを示しています。
そして、終わることのない憧れは、透に一つの答えを与えます。
〝進む彼女の背中を、永遠に追いかけ続ける結末でも構わない〟
この思いを得るまでに、十年もの苦悩や逡巡がありました。
その長い時間を経て、透はようやく自分自身を見つけるのです。
きっと劣等感も羨望も消えない。
自分は何も変われないのかもしれない。
それでも、それらを抱えているのもまた自分自身。
そして、その感情を抱かせる相手が星野優華だからこそ、受け入れられる。
透が抱え続けてきた数え切れない感情は、やがて一つの思いへと形を成します。
物語の最後では、たった一つの言葉へ収束していきます。
この感情の流れは、本作最大の見どころです。
遠回りを重ねた初恋は、透にとって自分自身を見つける時間でもあったのでしょう。
恋は人を変える。
そんな少し気恥ずかしくなるほど青く、だからこそ愛おしくなる二人を描いた物語です。
たくさんの人に読んでほしい、と心から思える物語です。
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文武両道で生きるのが上手い星野優華。対して才能もなく性格も暗い香住透。
幼い頃に優華に助けてもらったことのある透は、成長するにつれ、開いていく彼女との距離や、彼女に憧れ、妬む気持ちに苦しむようになります。同時に、彼女になって、彼女の努力や感情のすべてを知りたいと強烈に感じる透。
人は公平には生まれないという悟り、持てる者への羨望、自分への諦め。相反する気持ちに引き裂かれる透の心情が、間近なものとして、はっとするほど鮮明な言葉で語られます。その鮮明さによって、読む者に浮き沈みの多かった若い日々をリアルに思い起こさせます。
瑞々しい文体というのはこういう文を言うのだと、この作品を読んで初めて思いました。瑞々しく、美しい中にも激しさが垣間見える、心をぐっと掴まれる作品です。