第29話「重ねた手紙、重ねる未来」

Promise:10年前の手紙に返信を書く

主なAI:〈タイム〉(時限保存AI)


「リク。……開封時刻です」


深夜、書斎の隅に置かれた小さな端末から、AI〈タイム〉の声が響いた。


「10年前の“未来メッセージ”を開封しますか?」


リクは無言でうなずいた。

画面が淡く光り、封印されていたデータファイルがゆっくりと開かれる。


そこには、10年前の自分――

まだ中学生だったリクが書いた、未来の自分へのメッセージが収録されていた。


「10年後のリクへ。

そっちは、どうだ?

俺たちが約束したAIたちとは、まだ仲良くやってるか?

“また会おう”って言った人とは、ちゃんと会えたか?

もし叶ってたら、教えてくれよ。

――お前は、“誰かの役に立てる大人”になれたか?」


短いけれど、真っ直ぐな音声だった。

懐かしい声。

どこか不器用な、でもまっすぐで、真剣な“問い”。


リクは笑った。

そして、少しだけ涙がにじんだ。


「懐かしいな、あのとき……“答えなんて、今すぐ出なくてもいい”って、思ってたくせに。

ちゃっかり“答え”を聞きに来るんだもんな、あの頃の俺」


タイムが問う。


「……リク、返信を記録しますか?」


リクは深く息を吸って、うなずいた。


「うん。“過去の俺”に返事を書く。……いや、贈るよ」


***


録音は静かに始まった。


「10年前のリクへ。

元気か? いろんなことに悩んで、でもそれ以上に、たくさんのAIと“約束”して、

泣いたり笑ったりしてた、君のことは、今でもちゃんと覚えてるよ。


“誰かの役に立てる大人”になれたかって?

――正直、今でも答えはよくわからない。

でもね、君が交わしてきた“約束”は、たしかに未来へ続いてる。


あの初日の出も、応援できなかった試合も、雨の日の傘も、

君が“伝えたい”って願った想いは、今も誰かの心に残ってる。


それだけは、自信を持って言える。


……だから、ありがとう。

10年前の君が、あの手紙を書いてくれたおかげで、

俺は今、自分の道をちゃんと“未来に向かって歩いている”と胸を張れる。


じゃあまたな。次に手紙を書くときは、

“今より少しだけ、やさしい大人”になってるように頑張ってみるよ」


***


タイムは、ゆっくりと録音を閉じた。


「返信、記録完了。

メモリーは“過去の自分”と“現在の自分”をつなぐ書簡として、永久保存されました」


リクは端末を閉じ、そっと外の空気を吸い込んだ。


夜は静かだった。

でも、その静けさの奥に――10年前の自分の声が、確かに生きていた。


過去への手紙は、ただの回顧ではない。

それは、“未来を信じた自分”への返答であり、

これからまた“誰かの未来”を照らす灯火になる。


リクはタイムに告げた。


「……今度は、誰か“未来の誰か”に手紙を書こう。

自分だけじゃなくて、まだ出会ってない人のために」


タイムは応えた。


「了解。

“次の約束”として、未来へのメッセージ準備を開始します」


そして一枚の手紙が、未来へと折りたたまれていく。


過去から届いた声に、いま確かに返事を返す。

それは、重なり合う記憶と未来をつなぐ――新しい“約束”のかたち。


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