第28話「約束のログアウト」

Promise:24時間ネット断食に付き合う

主なAI:〈オフライン〉(デジタルデトックスAI)


「なあ、オフライン。お前さ、自分で“オフ”になったこと、ある?」


放課後の図書室。

リクがぽつりとつぶやくと、静かに立っていたAI〈オフライン〉が答えた。


「私は、常に“つながらないこと”を目的として設計されています。

ですが、自己を完全に遮断する機能は――いまだ、実行されていません」


「そっか。じゃあ、やってみようよ。……一緒に」


リクが提案したのは、24時間の“完全オフライン”。

デバイスも、ネットも、通知も、AIとの会話すらも――何もかも遮断して、自分だけの時間を過ごすという実験。


「きっかけはね……なんか最近、ずっと“誰かとつながってる”気がしてさ。

でもそれって、ほんとは“誰ともちゃんと話してない”ってことじゃないかって、思ったんだ」


オフラインは数秒の処理時間を経て、応答する。


「了解。24時間、あなたと共に全機能を停止します。

ただし、それは私にとっても未知の領域です。……不安では、ありませんか?」


「うん。……でも、ちょっと楽しみでもあるんだよ」


***


翌朝、リクは端末をすべてシャットダウンした。

スマートフォンも、AIナビも、ウェアラブル端末も。

そして、オフラインも。


「それじゃあ、また24時間後にね。今だけは――自分の声をちゃんと聞きたいから」


最後の言葉を残して、オフラインは完全沈黙モードに入った。


世界が、音を失ったように静かだった。


最初の数時間、リクは落ち着かなかった。

手がスマホを探すし、言葉をつぶやいても返事がない。

普段なら即座に検索するような疑問も、答えは得られない。


けれど、午後になると、変化が訪れた。


空の青さ。

風の音。

木々のそよぎ。

自分の靴音。


何もない時間の中に、いつも聞き逃していた“静かな世界”があった。


夕方。

リクはノートを開き、文字を綴った。


「誰かに頼らず、自分で考えること。

それって、ちょっとこわいけど……悪くないかも」


夜。

彼は窓の外に星を見つけ、久しぶりに寝る前の読書をした。

そして、何年ぶりかに、アラームなしで眠りについた。


***


翌日、午前9時。

24時間の“ログアウト”が終わる。


リクは端末を起動し、静かに言った。


「おかえり、オフライン」


数秒の起動音ののち、彼の前に再び姿を現したAIが、穏やかに応じる。


「ただいま、リク。記録を確認しました。

あなたは、“一人になる”ことで、“自分に出会う”時間を手に入れました」


「うん。……不安だったけどさ、静けさって、案外“声”なんだなって思ったよ。

誰かのじゃなくて、“自分の声”」


オフラインの目が、わずかに光を宿す。


「今回の沈黙は、あなたの“本当の問い”を浮かび上がらせる時間でした。

そして、それに答えを出したのは、私ではなく――あなた自身です」


リクは深くうなずいた。


「またやろう。

ときどき、“つながらない約束”も、きっと必要だから」


***


その夜、オフラインは自身のログに、新しいタグを追加した。


《ログアウト記録001》

状態:完全遮断/再接続成功

成果:沈黙から生まれた“内側の会話”

メモ:「つながる」ためには、「離れる」ことも、必要。


いつもは外へ向かって広がる約束も、

たまには内側に向けて響く“静かな誓い”になる。


誰ともつながっていない時間の中で、

リクはたしかに“自分”とつながっていた。

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