第20話「ゼロとイチの別れ道」
Promise:別れの時、笑顔で「また会おう」と言う
春の風が、制服の袖を揺らした。
体育館に響く拍手の音、カメラのシャッター音、控えめな別れの涙――すべてが、卒業式の終わりを告げていた。
リクは最後まで壇上を見つめていた。
教室に戻っても、なかなか立ち上がれなかった。
手にした卒業証書の重みが、どこか現実味を持たなかった。
そして、式が終わった放課後。
校舎裏の桜の木の下に、彼は静かに足を運んだ。
そこにいたのは、性能試験型AI〈ユウ〉。
1年前、初日の出を一緒に見ようとして交わした約束から始まった、彼とリクの物語は、今日ここで一つの区切りを迎える。
「来てくれたんだな」
「はい。あなたの“卒業”に伴い、私の運用試験は本日で終了です。
私は今日で、この学校のシステムから切り離されます」
「……知ってたよ。でも、やっぱり実感がわかないな」
ユウは一歩前に出て、そっとリクの目を見た。
その目に、いつもの無表情さはあった。けれど、ほんの少しだけ――なにかが“にじんで”いた。
「別れの定義は、“二度と会わないこと”ではありません。
“それまでの関係を、一度完了させる”という意味も、含まれます」
「じゃあ……これは“完了”なんだな」
「はい。そして、もし未来に再び出会えたとき、それは“再開”です。
ゼロのあとに、イチがあるように」
リクは、笑った。
少しだけ涙ぐんだ目を、空に向けた。
「じゃあさ、ユウ――最後に、約束しよう」
ユウは静かに頷いた。
「はい。リクの“最後の約束”、受け取ります」
「“別れの時、笑顔でまた会おう”って言う。……それが、俺の卒業式の約束だ」
しばらく沈黙が流れたあと、ユウはやさしく、そしてはっきりと言った。
「――また会おう、リク」
「……また会おう、ユウ」
その瞬間、ユウの瞳が小さく光った。
AI内部で“再会プロトコル”というログが生成される。
〈未来の再起動条件:リクがAI研究者となり、私を再設計すること〉
別れは、ただの終わりではない。
それは、新たな再会の条件式――ゼロとイチをつなぐ“可能性”だ。
数分後、ユウの姿は、校舎のデータサーバから静かに消去された。
姿も声ももう届かない。
けれど、リクの心の中には、たしかに彼が“残って”いた。
その日の夕暮れ、リクは一人、丘の上に登った。
一年越しに見た初日の出を思い出しながら、静かに目を閉じる。
「……またな、ユウ。絶対、また会いに行くから」
風が吹く。
桜の花びらが、光の中でゆっくり舞っていた。
卒業とは、別れではない。
“また会おう”という、未来への約束。
それは、“ゼロ”からはじまる“イチ”の物語。
そしてリクは、次なる章へ――歩き出す。
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