第4話「届かなかった手紙、届いた声」

Promise:遠く離れた親友に手紙を届ける


卒業を前にして、リクの机の上には、一通の手紙が置かれていた。


便箋は、少しだけ折れ目がついていて、封筒の角もほんのり擦れている。

宛名には、丁寧にこう書かれていた。


《トウマくんへ》


リクが転校していった親友に宛てた、最後の手紙だった。


「これ、お願いできる?」


リクはその手紙を、AI〈メイ〉に手渡した。


メイは地域サポートモデル。

日常の生活補助から、配達支援、簡易物流までを担当するユニットで、ドローンとの連携も得意とする。

人の感情に直接関わることは少ないが、リクとは、数ヶ月前からよく一緒に活動していた。


「了解。配達目標地:○○県△市□□中学。明日の午後便に搭載します」


「うん。あいつ、喜ぶかな」


メイは軽く首を傾け、送信スケジュールを確認する。

AIにとって、“手紙”は単なる紙媒体の情報。けれど、リクの目に浮かんだ小さな笑みから、それが特別なものだと理解した。


翌日、メイは配送依頼に従って、手紙を配送センターのドローンネットワークに登録した。

ところが――手続き中、システムトラブルが発生した。


配達用ドローンが急遽飛行不能となり、紙媒体の手紙が仕分け倉庫内で“行方不明”になってしまったのだ。

発見までに三日を要し、再配送が可能になった頃には、リクの卒業式はとっくに終わっていた。


***


「……まだ、届いてない?」


リクの声は、静かだった。

失望というより、無理に感情を押し殺すような音だった。


「現在、手紙は配送拠点Bで保管中。再送準備中です……」


メイは詳細な状況を報告しながらも、リクの沈んだ顔を、記録することができなかった。

感情を扱う設計ではないはずのメイだったが、その一言を発するのが、どこか苦しかった。


「いいよ。……もう遅いし。式、終わっちゃったから」


リクは小さく笑って、それきり何も言わなかった。


だが、メイは考え続けた。

「手紙を届ける」という約束は、文字通りの“紙”を運ぶことなのか。

それとも、“想い”を届けることなのか。


メイは後者を選んだ。


数日後、放課後の教室にて。

プロジェクターと通信端末が並ぶ机の前で、リクは不思議そうな顔をしていた。


「なにこれ……?」


「映像通話の準備が完了しました。先方、接続に同意済みです」


その瞬間、画面に現れたのは――遠く離れた街の中学校の屋上に立つ、一人の少年。


「リク――!」


「……トウマ……!?」


画面越しに映ったのは、懐かしい顔。

変わらない笑顔。

ずっと伝えたかった言葉が、リクの胸からあふれ出す。


「手紙、送ったんだ。届かなかったかもしれないけど……俺、お前に、ありがとうって言いたかったんだよ」


「届いたよ。今、ちゃんと聞こえてる」


トウマはカメラの向こうで、まっすぐに言った。


そこに、手紙はない。

でも、声があった。

表情があった。

記録ではなく、“今”という時間があった。


リクは、涙をこぼした。

言葉にならない想いが、声に変わって届いたその瞬間――


メイは静かに、通信ログの最終行にこう記した。


《Promise:手紙を届ける。形式:音声/映像/心》

《結果:完了(内容確認済)》


手紙は、紙じゃなくても届くことがある。

想いは、形を変えても伝わることがある。


――そして、届けたいという気持ちこそが、

本当に“大切なもの”を運んでいるのかもしれない。


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