第9話 村人B、旧ギルド跡で秘密と再会に出会う

 三人は、かつて鍛冶ギルド本部として栄えた街、スレイヴァン。


 今では人の気配もまばらで、かろうじて街としての体裁を保っている程度だ。中央広場にぽつんと残る石碑には、こう刻まれている。


『すべての創造と破壊は、ここから始まった』


「……まるで預言みてぇな言い草だな」


 クラウスが呆れ気味に言ったが、ロウは無言でそれを眺めていた。彼にとってここは、原点であり、過去そのものだった。


 広場の裏手に回り、廃墟同然となった旧ギルドの地下へ続く階段を下りる。


「こんなところに“隠し倉庫”があるなんて、誰も思いませんね……」


「そのための“隠し”だ。エリナ、気を抜くな。結界はまだ生きてるはずだ」


 その言葉どおり、地下通路の先には淡い青光を放つ封印結界が張られていた。


 ロウが指先をかざし、特殊な魔紋を描く。すると、光がシュウッ……と音を立てて収束し、道が開かれた。


「すげぇな……こんなもん、一人で造ったのかよ?」


「ギルド全体の魔力網を利用した。維持費がバカにならんから誰もマネしなかったがな」


 通路の奥に広がるのは、巨大な地下保管庫。棚には無数の設計図や魔金属、試作装備が並んでいる。だがその中、異質な気配を放つ一角があった。


「……懐かしいな、“アレ”も無事か」


 ロウが向かったのは、黒い鉄製の大型コンテナ。その扉には重厚な封印呪が刻まれていた。彼が手をかざすと、その封印が一つずつ静かに解かれていく。


 しかし──その瞬間。


 背後から、足音。


「まったく……師匠がここに帰ってくるなら、一言くらい連絡してくれてもいいじゃないですか」


 若い、だが落ち着いた声音。振り向けば、そこに立っていたのは――


「……お前、生きてたのか」


 ロウの声が珍しく揺れた。


 現れたのは、かつてロウが唯一正式に弟子として認めた男、《カイル・ゼーレ》だった。


 白銀の髪に、漆黒の鍛冶師装。冷静な目がロウをまっすぐに見つめていた。


「“神滅装”を回収しに来たんですよね? 師匠なら、そうすると思ってました」


 ロウはわずかに目を細めた。


「お前がまだギルドに残ってるとはな。幹部になったって噂は聞いたが……」


「ええ、今は“管理部門”の代表です。ですが……正直、あれをこのまま放置しておくわけにはいきません」


「……それは、ギルドの総意か?」


 カイルはわずかに沈黙し、首を振った。


「いえ、私個人の判断です。ギルドには……動きがあります。師匠の装備を利用しようとする者が現れた。だからこそ、今、動かないと間に合わない」


 静かな空気の中で、ロウはひとつ息を吐いた。


「……そうか。お前がそう言うなら、手を貸せ」


 カイルは一礼する。


「もちろんです、師匠」


 それを見ていたクラウスがボソリとつぶやく。


「……なにこの“できる弟子”感。俺の居場所ねぇな……」


「むしろクラウスのが異常だったから気にすんな」


「ひでぇ」


 エリナはそんな二人を見てくすりと笑いながらも、視線はロウとカイルのやり取りに釘付けだった。


 ロウの“過去”は、今、動き出している。

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