第3話
体が軽い。
まるで羽が生えているようだ。
もうかれこれ2時間はスコップを握っている。
だが俺は無尽蔵なスタミナを手に入れたかのように、ひたすら掘り続ける。
ダンジョンの天井が崩れた?
迷宮の奥地の秘宝探し?・・それならまだ体裁がいいのだが。
ここはスールー通りから少し路地を入ったところ。
いつもの朝飯屋の隣り。
つまりダンジョンの外だ。
今朝宿を出る時には確かにあった。
銅貨3枚。
朝飯を食った時も確かにあった。
銅貨3枚。
なのにダンジョン管理人と軽く挨拶を交わし、
ポケットに手を突っ込んだら1枚しか無い。
どこを探しても無い。
途方に暮れていたが、
どこかに落としたんじゃないか、と言う管理人の言葉に我に返る。
朝飯の時はあった。
あそこか。
急いで朝飯屋に戻る。
店内に入ると、この時間はガラガラだ。
1人子供がポツンとテーブル席に座っている。
店員の元に向かう俺を値踏みをするような目で見てきやがる。
いけすかないガキだ。
ともかく俺はそれどころではない。
足早に奥のカウンターに向かい、
暇そうにしていた店員に声をかけてみる。
返事は残念ながら芳しくない。
いよいよ行き詰まった。
今夜の野宿先を本気で考えなければ。
冒険者なんでも相談所の場所を探す為に地図を取り出そうとしたその時。
チャリーン
最後の銅貨1枚が落ちて転がっていく。
足で踏もうとしたが転がるスピードが速い。
3度目に踏みそびれた後、銅貨はスローモーションのようにドブ川に吸い込まれていった。
その姿勢で3秒ほど固まっていたであろうか。
ふと横を見ると、あのいけすかないガキがジーッとこちらを見ている。
このままではまずい。
俺は妙なステップを繰り返しながら、店の裏手へと進んだ。
そして2分ほど身を潜める。
覗き見るとあのガキは店内へ戻ったようだ。
やはりガキはすぐ興味を失う。
もう一度遭遇する事のリスクを考えながら店の裏を見ると、庭の手入れの為だろう、置かれていた真新しいスコップを見つけた。
誰もいなかったので拝借する。
さてドブ川の探索だ。
難航するかと思いきや、開始して5分で見つけた。
小さめのガッツポーズをしながら、慌てて店の方を見るが、奴はいない。
水で洗い流すと、かなり古ぼけた銅貨が出てきた。
・・俺の銅貨じゃない。
俺の銅貨、つまりあの銀色冒険者が持っていた銅貨だが、両替したてのピカピカな品だった。
断じてこれでは無い。
となると。
試しに近くを掘ってみた。
2枚出てきた。
無言でさらに掘る。とにかく掘る。
また2枚出てきた。
飯屋で注文した料理と間違えてワンランク上の品が出てきた時のような、驚きと興奮に高揚した感覚。
抑えていても体がプルプル震えてくる。
ブチッ
俺の中のリミッターが外れる音がした。
それから休憩なしで掘り続けている。
低級冒険者が命をかけても数枚しか手に入らない貴重な銅貨。
それがもう12枚も。
狂ったようにドブ川の中でスコップを振るう。
通りかかった冒険者が、見てはいけないものを見たかのように目を逸らしながら通り過ぎていく。
それに一瞥をくれた俺は密かに鼻で笑う。
お前らは負け組。
恐らく悪魔のような形相をしていたのであろう。
2人連れの女冒険者が悲鳴をあげて走り去る。
これはもう案件だ。
通報されるのも時間の問題だ。
俺はラストスパートをかけるかのごとく、
さらに勢いを増して掘り進める。
あらかた掘り返したところで異質な音に我に返った。
ガチャガチャガチャ
衛兵を呼んだのか?
急いで見つけた銅貨をかき集める。
俺はドブ川を這い上がり、
ひん曲がり取っ手が半ば外れかかったスコップを庭に投げ入れつつ路地へと走った。
宿に着いた俺は自室でコル酒をジョッキであおりながら、銅貨を広げてみた。
数えると48枚。
これだ。
何かを悟った気がした。
第3話完
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今日の収支
収入
・川ドロップ 銅貨48枚
支出
・宿代と飯 銅貨5枚
収支 銅貨+43枚
所持金 銅貨44枚
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