第三章:忘れられた観測所と血の宿命
幾多の困難を乗り越え、エルフリーデとライルはついに「嘆きの山脈」の奥深く、雪と氷に閉ざされた忘れられた観測所にたどり着いた。
そこは、崩れかけた石造りの塔と、いくつかの付属施設からなる小さな遺跡だった。
観測所の内部は、驚くほど保存状態が良かった。
壁には複雑な天文図や魔力回路が刻まれ、中央には巨大な水晶玉が鎮座していた。
それは、星々の動きや魔力の流れを映し出すための「星見の水晶」だった。
エルフリーデが水晶にそっと手を触れると、淡い光が溢れ出し、彼女の脳裏に様々な映像が流れ込んできた。
それは、アストライアの記憶。
災厄が迫る中、必死に解決策を探し求める彼女の姿、そして、ついに一つの結論に達した瞬間の絶望と希望の入り混じった表情だった。
「そうか……アストライアは、災厄を封じるための新たな方法を見つけようとしていたんだ」
そして、エルフリーデは衝撃の事実を知る。
観測日誌に記された、災厄を封じた「星の盾」の勇者。
その勇者こそが、エルフリーデの遠い祖先であり、ヴァイスハイト家の始祖だったのだ。
彼女は、ただの落ちこぼれではなかった。世界を救った英雄の「末裔」だったのである。
しかし、アストライアの記憶はさらに続く。
勇者が用いた「星の盾」は一度きりのアーティファクトであり、再度の災厄には無力であること。
そして、闇喰らいの蝕は、単なる自然現象ではなく、強大な意志を持つ邪悪な存在――「虚無の王」――によって引き起こされるという戦慄の事実を。
「虚無の王は、数千年ごとに覚醒し、世界を喰らおうとする……そして、その覚醒の時が、今まさに迫っている……」
ライルが息をのむ。エルフリーデは、己の血に流れる宿命の重さに打ち震えた。
しかし、彼女には強大な魔力がない。先祖のような力はなかった。
アストライアの最後の記憶が流れ込む。
それは、エルフリーデに向けられたメッセージだった。
「我が血を引く末裔よ……力だけが全てではない。世界を救う鍵は、星々の運行、魔力の流れ、そして世界の理を正しく『観測』し、理解することにある。あなたに受け継がれたのは、魔力ではなく、真実を見抜く『星詠みの瞳』なのだから……」
その瞬間、エルフリーデの瞳が淡い銀色の輝きを放った。
それは魔力の光ではない。
世界の法則そのものを映し出すかのような、澄み切った輝きだった。
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