蜜蜂の記憶

滝口アルファ

蜜蜂の記憶

蜜蜂のようなものが

あなたの顔の裏側を

飛んでいくようなほほえみだった

午後の時間がゆるやかに流れていた


あなたと私は椅子に座って

それぞれの悲しい青空を

合わせ鏡のように対峙させながら

何を話していたのだろう


比較的狭い部屋だったのだが

そこに二人っきりでいたのだが

まるで蜜蜂の眠る大草原に

いるのではないかと錯覚したものだ


はっきりとは思い出せないが

ほとんど本題には触れないで

寄り道ばかりする子供のように

雑談をしていたのだろう


むろん沈黙はあった

しかしそれは百合の蜜を吸う蝶

さながらの美しい沈黙だったので

むしろ恍惚とした


そんな時間が流れているとき

もしも私が愛の告白をしていたら

あなたは何と答えたのだろうか

それは極彩色の言葉だったのだろうか


そして終わりが近づいて

次回の予約の時間を

確認しているときのあなたの真顔は

私の寂しさの蜜蜂を微かに震わせた


建物を出ると案の定、日差しが

蜜蜂のように降りそそいでいた、私は

二週間後に私の名前を呼ぶであろう

あなたの琥珀色の声を思った

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蜜蜂の記憶 滝口アルファ @971475

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