私の話。
「行ってきます」
誰も居ない部屋に向かって口にする。これは癖なのだ。寂しさを紛らわす癖。
父子家庭のウチは、お父さんが私が起きるより先に家を出て私が寝てから帰ってくる。最近はめっきり会話もしなくなった。
この生活に慣れたは慣れたが寂しさがないと言えば嘘になる。普通に両親がいて、普通に家に人がいて、話して、食べて、そんなことを夢見ることもある。だけど私は私とお父さんを捨てた母を許さない。これまでも、きっとこれからも。
さて、今日は何があるかな〜。なんて思いながら通学路を歩く。ふと、同じ背丈くらいの男の子を交差点に捉えた。図書室でいつも本を読んでる子だ。
気になるけど掴みどころがないんだよな〜
そうだどうせ向かう先は一緒だなんだしついて行こう。何かわかるかも。
はぁ、結局なにも起こらず学校に一直線じゃないか。学校で一人喋らず本読んでるような奴は外で猫助けたり老人助けたり、なにか裏の顔があるもんだろ!
いやそれは小説の、フィクションの話でしょーが。
なんて心の中で独談を繰り広げながら笑う。
ふふっ、まぁこれがあの子だ、老人を助けてる姿なんて見たら好きじゃなくなりそうだもの、これでいい。
学校は楽しい、友達と話せるし色々あるから。でも授業はつまんなくて嫌いだ。なんて堅苦しい時間なんだと毎日毎時間ボヤきながら適当に受ける。
今は六時間目、これが終われば今日もあの子を見に行ける。今日はどこから眺めていようか、棚からでもいいが今日は思い切って同じ机の対角にでも座ってやろうか。そんなことを考えてたら話しける、なんて選択肢が思い浮かんだ。いやいやいやいや、こっちの片思いだし…いやまぁこんなこと始めて二ヶ月だし話しかけても…。いや、人を好きになるなんて初めてだし言ってみても……
授業中にも関わらずそんなこと考えて顔が赤くなってしまった、見られないように伏せながら冷静になる。
好きな人のことを考えているこういう時間が好きだ。誰かを一途に思うのは、好きを原動力に変えれてる気がして自分に自信が湧く。なんだかただの自己満みたいだ、まぁ元々恋なんて自己満か。
さて、やっと授業が終わった。図書室に行こう。
よし、今日もいるね〜
図書室入りながら謎の感心をしていると、さっき考えてたことが脳をよぎって足が止まった。
この気持ちを確かめるためにも話しかけようと思った。十分くらい待って話しかけながら隣に座ろうと考えた。隣は少し攻めすぎかなと思ったが距離置いて座ったのに話しかけてくる方が変な気がした。
「こんにちは。隣座ってもいい?」
話しかけちゃったぁぁぁ
肝心の相手は突然話しかけられて驚いているようだ無理もない、読書してるやつに話しかけるやつにまともなやつはいない。とりあえず自己紹介でもしよう。
「私、想屋奏。一年A組。君も一年だよね。よろしく。」
やばい、めっちゃ心臓バクバクしてる。自己紹介しただけなんだけどな。自分で自分がわかんなりそうで怖い。
「白野碧斗、一年B組。」
自己紹介返してくれた。今までの自己紹介の中で一番嬉しいかもしれない。とりあえず挨拶も済ませた事だし宣言通り隣に座る。椅子に座ったおかげでとりあえずこのバクバクはおさまりを見せていた。
彼もとりあえず受け入れられたのかここからの談話は円滑だった。
本好きは同じだったから好きな著者とか、ジャンルなんかを語り合った。こうも本の話をできる友達が居なかったから今まで控えてきた分すごい楽しい。もう緊張なんてどっかに飛んでってた。
いつの間にか帰宅のチャイムが鳴った。一緒に昇降口に向かう。知り合いに会いませんよーに!
なんとか誰にも会わずに校門を出た。あとは一人だから安心だ。
あれ、待って。朝、彼通学路で見たよね?あれ?これ途中まで一緒⁉︎
やばいやばいやばいもうこれ付き合ってます?やばいっててかなんで私普通に受け入れて会話して帰ってるの⁉︎表の私怖ぁ…
なんだかんだあったが朝ダッシュした交差点まで来た。これでバイバイだ。今日は楽しかったなぁまた話したいなぁ…伝えたいことはいっぱいあったが、ここは堪えて普通に。
「また明日も!」
……
彼が黙ってしまった。やばい、会いたく無い人認定されちゃった?不安がりつつ、俯いた彼を覗く素振りをする。
彼が慌てて答える。
「うん、また明日」
ぎこちない笑顔を作りながら言った。
私は満足気に頷いて手を振りながら離れてく。振り返してくれた。
言葉にも行動にも人の真意が宿るものだ。彼の今の言葉と行動は嘘ではなかったと思う。良かった明日も会える。でも彼が一瞬フリーズしたのが少し気になる。なにか抱えてるのだろうか。
それを相談していいと、打ち明けていい、と思って貰える人間になりたいと思った。
家に着いた。
「ただいま…」
相変わらず誰も居ない部屋に呟く。
相変わらず誰もいない。適当に作り置きしたものを冷蔵庫から取り出し温っためる。今日はドキドキで疲れたから早く寝よう。
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