『君の瞳に映るわたし』番外編:湖畔の約束

兎 美香

春、湖畔の新芽

2026年4月、山梨県の湖畔の町は桜が満開だった。湖面に映るピンクの花びらが、まるで美月のイラストのように柔らかく揺れていた。美月と悠真は、湖畔での「愛と再生」プロジェクトの成功から1年、再びこの町を訪れていた。


今回は、町の小学校で子供たち向けのアートワークショップを開催するためだ。美月は絵本作家として、悠真は写真家として、子供たちに「自分を表現する喜び」を教える企画だった。


「美月、子供たち、めっちゃ楽しみにしてるみたいだぞ。君の絵本、大人気らしいな」

悠真がカメラを手に笑うと、美月は照れながらスケッチブックを手に答えた。


「うそ、ほんと? でも、君の写真教室の方が、絶対みんなワクワクしてるよ」

二人は湖畔のコミュニティホールに向かいながら、軽口を叩き合った。1年前のプロジェクトで深まった絆は、今も変わらず、日常の中で輝いていた。


ホールに着くと、20人ほどの小学生が目をキラキラさせて待っていた。美月は新作絵本『湖の光の物語』を手に、子供たちに読み聞かせた。湖が傷を癒し、愛を映す物語は、子供たちの心を掴んだ。


「佐倉先生! この湖、ほんとに光ってるの?」

一人の女の子が手を挙げて尋ねると、美月は笑顔で答えた。


「うん、ほんとだよ。心で見たとき、湖はキラキラ光るんだ。君の心にも、きっと光るものがあるよ」

子供たちは歓声を上げ、スケッチブックに思い思いの絵を描き始めた。


一方、悠真は写真教室で、子供たちに使い捨てカメラを渡し、湖畔で「好きな瞬間」を撮る課題を出した。


「高瀬先生! どうやったら、きれいな写真撮れる?」

男の子がカメラを構えながら聞くと、悠真は屈み込んで答えた。


「心で感じたものを、ちゃんと見つめること。

君の目が、最高のレンズだからな」

子供たちの笑顔を撮りながら、悠真はふと、美月の横顔を思い出した。彼女の瞳に映る自分は、いつも希望に満ちていた。


ワークショップの後、子供たちの作品がホールに展示された。カラフルな絵と、湖や友達を収めた写真が並び、町の人々が拍手で迎えた。美月と悠真は手を取り合い、子供たちの純粋な表現に心を温めた。


「美月、俺たち、こんな風に、誰かの心に光届けられるんだな」

「うん。君と一緒なら、どんな光も、もっと輝くよ」


二人の視線が交錯し、湖の光がその瞬間を祝福するようだった。

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