後編


「ちょっとあなた何様なの?」

「へ?」


女子寮に戻って自分の部屋の掃除が終わった。

相部屋になるはずの主人公の聖女は今日はまだ来ていない。

夕食を済ませようと食堂へと向かっていた途中で声を掛けられた。


「アンタなんか下級貴族が、なんで〈三公〉と話しているのよ⁉」

「たしかメイエル家だったかしら。──生意気ねアナタ」


しまった。

悪役令嬢サビア・エレジールの腰巾着のふたり。

そこまで家柄は高くないが、侯爵家であるサビアのそばで威張り散らすゲームの中でも好きになれなかった人たち。こんな序盤で目をつけられるなんて予想外の出来事が起きた。


「どうしたのかしら?」

「サビア様! この子が生意気で」


──出た!

初日から遭遇するなんて私も運がない。


黒く長い髪。

乙女ゲーの中では唯一、黒髪キャラで氷のような冷たい目が主人公である聖女をにらむシーンでなんども震えたが、まさか本物を拝むことになるとは……。


「ふーん、三公と話をしたんだ?」

「そうなんです。サビア様、この子、どうします?」

「どうもしないわ。三公なんて興味ないし」


おや?

ゲームの中では、三公……特にファーン王子にご執心だったが。


「それよりアナタ……なーんかどっかで見たことあるのよねー」


首をかしげてマジマジと私の顔を覗きこむ悪役令嬢。下手に顔が整いすぎているので人形が私の顔のそばにある気がしてならない。


「オホホホっ。では、皆様、ごきげんよう!」

「ちょっと待ちなさい!」


ここは早めにこの場を立ち去った方がいい。留まるだけ損しかしない。

貴族の話す言葉なんて知らないから適当に挨拶してトンズラしようとしたら、呼び止められた。──やはり悪役令嬢にいじめられるのは避けられない運命なのか。


「あなた……そのカエルは?」

「ああ、この子はピョンコです。さっき私の家族に加わったんです」

「家族?」


しまった。

現実世界と間違えてしまった。家に30匹ほどカエルを飼っているが、全員、私の家族の一員。ついうっかり口走ってしまった。


「ふたりともちょっと外してくれる?」

「でもサビア様……わかりました」


なにか言いかけた腰巾着ふたりの人払いを済ませ、まっすぐ私の方を見る悪役令嬢。


「あなた、もしかして……」

「そこでなにをしているのですか?」

「あら、聖女コリン・マイローラ」


私たち二人の間に割って入ってきたのは見覚えのある女の子。


聖女コリン。

桃色の髪をした美少女。

このポラネーボ学院唯一の平民で、高い魔力を持っている乙女ゲーの主人公。

それにしてもおかしい。


「なぜ私が聖女だと? 1学年前期では誰にも知られていないはずなのに」

「そういう、あなたこそ、なぜ1学年前期は誰にも知られないと言い切れるの?」


悪役令嬢サビアはなぜコリンが聖女だと知っている?

乙女ゲーの中でも最初は誰も知らない設定のはずなのに……。


「さあ? それよりユーリ。私、カエルを家族と呼ぶ人って少ないと思うの」

「ホント? 奇遇だわ、私もひとりしか知らない」


カエルを家族と呼ぶのはたしかに私も私しか知らないけど。


「「由伊!」」

「えっ、なんで知ってるの?」

「「やっぱり」」


由伊……私の転移前の名前。

このふたりはいったい?


「ってことは、聖女コリン、あなた聖枷でしょ?」

「そういうあなたは七桜ってことなんだ」


聖枷が聖女コリン・マイローラで、七桜が悪役令嬢サビア・エレジール?


もしかしなくても3人仲良く転移しちゃったってこと?


「ふたりとも、このゲームはクリアした?」

「流行ってたけど、途中でリタイア」

「私もリタイアしたわ。つまんなかったし、由伊は?」

「3人ともクリアしたけど」


ふたりのようにあっちの世界で忙しいわけじゃないから、全部クリアしちゃった。まあ、面白かったかって言われると、本編より別のところにこのゲームのやり込み要素があったから面白かった。


「ボクはまず破滅ルートの回避」

「私は三公の好感度を上げないようにしなきゃ」

「なんで? 応援するよ。好きなの選んじゃいなよ?」

「イヤよ、七桜に全員譲るわ」

「ボクだってあんな連中要らないよ。ボクが欲しいのは……」


ふたりの視線が私……由伊ことユーリに注がれる。


いやぁ。

みなまで言わないで。


いったいこれからどうなっちゃうんだろ?














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聖女、令嬢、普通の子 あ、まん。 @47aman

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